第154話 私は落ちて行く………
「死の商人だと!?」
ルナが剣を抜きヴァルト様の前に立ち構える。
「お〜よいよい、威勢の良いお嬢さんだ。その漲る生気…ハッキリと見える。お嬢さんには悲惨な死をお届けることを約束しよう」
しわがれたお爺さんの様な声になんとも言い難い威圧感が込められた声、そのせいもあったか、全員が無闇には動こうとはしない。
「呪いは連鎖する。一つの恨みは周りを巻き込みより大きな恨みへと変貌する。お嬢さんを殺せばヴァルト卿、あなたの恨みを頂けそうだ!ではゲームをしょうかの〜」
「何を言っている!娘には手を出させんぞ!」
ヴァルト様が怒りの形相で言った。
「ま〜話を聞きんしゃい!ワシは死の商人、目的はローラン提督を殺すこと、ただし普通に殺してはつまらん、呪いは連鎖せねばならん。孫が死に、その悲しさがヴァルト卿、お前を恨みへと誘う。そして恨みは連鎖する。ローランを殺す呪いとなるのだ!ヴァルトよ!」
この死の商人言っていることが訳が分からない。これは今直ぐにでも排除しないといけない。
俺はハンマーを呼び出し、手に取って攻撃体勢を取ろうとした。
「痛ってぇー」
俺は右腕に激痛が走り押さえて膝をつく。
止めどなくながられ血………切られた?
なんでメイドさんに切りつけられたんだ?
横には勢いよくナイフを振り下ろした体勢のメイドが、そして腕を戻し顔をあげて分かった。この人……正気じゃない!?
「何してるのよ!」
「うふっ……」
ノルンはメイドの腹部に剣の柄を突き立て吹き飛ばし倒れた。
「ノルン助かった。この人は正気じゃない!間違いない!アイツに何かされているぞ。死の商人!」
タクトは前のめりの体勢になる。
「慌てるな少年、言ったであろう。ゲームをしょうと、ゲームにはルールがある。説明せねば始められん。勝手な行動はよしてくれ」
動き出しは失敗してしまった。
警戒されている中で動くのはリスクの方が大きいか……悔しいけど話を聞いて情報を得るんだ。
「うむ、宜しい、では説明しよう。ゲームは簡単だ。そこにいる聖騎士のお嬢さんを守ることあらゆる面からの〜、ではまずは準備をしようかの〜」
ルナさんの足元にある影から何かが出て来た。
咄嗟にそれを剣で弾くルナさん。
弾いた物は蛇の装飾がされた短剣、それを死の商人が拾い上げる。
「うむ、よいやよいや、頂いたぞい!お前の血をな!クックックッ、はぁ〜聖職者の血とはなぜこうも美味そうなのか」
死の商人が気持ちの悪いことを言っている。それより気になるのは短剣の血、ルナさん!?」
ルナさんは手の甲を押さえていた。さっきの短剣で切られたのか、でも大した怪我ではなさそうだ。良かった。
死の商人は一匹の生きた蛇を自身影から取り出し、その蛇に先程の短剣を突き立てるのだ。
「捧げるぞ!穢れなき魂への生贄ぞ!開かれよ!ゴエティア72柱アイムへの道ぞ」
しわがれた声で呪詛を唱える死の商人!それはルナさんへの魔の言霊だった。
……………▽
◆ルナの視点
何だこれは!?身体に何か纏わりつくように重く、それにさっき切りつけられた手の甲が酷く痛む。
私はその痛みに耐えられず片膝をついてしまった。
「クックックッ、よいよい、上手くいったようぞ!お前に呪いをかけた!憎しみを糧に、悲しみも糧に絶望を糧に……それがお前を悪魔に変えようぞ!さ〜ゲームは始まったぞ!この町と共に絶望せよ!」
死の商人が両手を高らかに挙げ叫ぶと同時にいくつもの爆発音が町が聞こえた。
「な…なにを…した…キサマ!」
私は痛みを堪え睨みつける。
「よいよい、その意気よい!教えてやろう。町に契約者を放った。この町の住民を殺せばお前達の願いが叶うとな。殺せば殺すほど願いは強く叶うと言ってやった。一体何人が死ぬかの〜無能なお前達が絶望することを願うぞ!それではな」
死の商人は溶け込む様に影の中に消えて行った。
なんてことだ、町の住民が!…!?
ぐうっ……腕がさらに……
私は手の甲を見ると、切り口に薄っすらと魔法陣が見える。これがヤツが言っていた呪詛、コイツを使って私と悪魔を繋げているのか、迂闊だった血は悪魔にとって最も扱いやすい媒介の一つ、私はすでに悪魔と鎖で繋がれた様なものか、そしてここからが問題だ、死の商人……アイツの言っていたことを思い出せ、アイツは憎しみた悲しみを糧にすると言った。これも悪魔を相手にしていれば常識だが、ヤツらはそれを自らの力として変える。恐らく私が怒るような状況、悲しむ様な状況を作るために町の住民を襲わせている。つまり私はどんな状況が起きても憎んではいけない!悲しんでもいけない。
…………そんなことが出来るだろうか!
私は町の住民や大切な家族を守るために聖騎士となった。それなのに目の前で住民が酷い目に遭わされて殺された現場を見て耐えれるだろうか、無理だ!そんなの絶対に無理だーー!
ダメだ!私はなんて無力なんだ!
(フッフッフッ、良いぞ!嘆き!悲しみ!絶望するのだ!そして私の物になれ、ルナよ!)
頭がボーっとする。
声が聞こえる。
私が無力で誰も救えないと訴えて来る。
もうダメだ!私は死ぬしかない。
(そうだ!良いぞ!絶望し、そして落ちるのだ!きっと……楽になる………さ〜おいで〜)
そうだ!落ちれば楽に……死ねる。
「あ!ルナさん………?ちょっと手借りますね。あれ〜?ボーっとしてますけど大丈夫ですか?」
周りがガヤガヤ騒がしい……
目の前に誰かいるけど良くわからない?
そんなことを考えていると強い光に照らされて、私は別の意味で落ちて行った。