第148話 情報収集部隊 帰還
あれからイグニスとカミラさんを二人きりにしてあげたかったので、どこか散歩にでも行ってはどうかと言おうと思ったが、ここは基本的になんもない異空間、同じ景色が続くばかりで楽しめない。仕方ないので、二人のためにもう一軒家を建て二人でゆっくりと話でもしたらと言って、ついでに紅茶とお菓子を渡してあげた。
「祭壇画はそこ!ロウソクはそことそこ、それからもう少し明るくしてほしいわね。照明はなんとかならないかしら」
「はぁ!必ずや、ご期待に応えてみせます」
「この命にかけても!」
神父さまとアポロンは奮闘中、イリスに言われて教会をリフォーム、あっちやこっちやと走り回りどんどん教会の中が綺麗にかつ物に溢れていく。ちなみにイリスの注文には二人には無理があることが多く、その都度俺がタブレットを使い様々な物を揃え協力した。
「流石に疲れたから二人共休もう」
「何言ってるんだぁー、俺はまだまだこんなもんじゃねぇ〜」
「タクトくんは休んで良いから、私達に任せなさい」
アポロンはまったく止まる様子はなく。神父さまは俺に優しく声をかけてくた。だけど自分は休まずアポロンに続いて作業を継続する。
「ま〜いいじゃないのかしら、彼らは私のために頑張りたいって言っているんだから止めないであげましょ〜」
イリスはそう言って椅子に座り、俺はいつもの紅茶とお菓子をテーブルに置き休憩をすることにした。
「この紅茶は本当に美味しいわね」
イリスは一口飲むたびに幸せそうに飲む。神の世界では紅茶は無いのだろうか?勝手な想像になるけれども、ものすごく美味しい食べ物があるイメージだったので少し驚いていた。とは言え、今飲んでいるのは元の世界で最高級品の紅茶を飲んでいる。俺は日頃から飲まないからF T G F O P 1と言う単語が最高グレードらしいけど聞いてもピンっとこない。でも確かに美味かった。
「イリス、このくらいにしてくれよ。神父さま達止めないと永遠に作業しそうで怖いんだよ」
「そうね!なかなかの信仰心を持っているようじゃない。流石は私の信者と言ったところかしら」
はぁ〜……ダメだ!イリスは止めるどころか嬉しそうにしている。ま〜本人達も嬉しそうなんで止めなくてもいい気がしてきたぞ!うん!ほっとこう。
「タクト!」
「ん?なんだイリス」
「神託よ!」
「おい!唐突だな!思いつきで言ってるんじゃないだろうな〜」
「私は女神よ。思いつきでもそれには意味があるのよ」
「それで……何ですか?」
「ここに町を作りなさい」
「……はぁ?どう言うことでしょうか」
「女神の力の源でもある信仰心、これを上げるには人がいなければ話にならないわ!千人!まずは千人集めなさい。それが神託よ」
また無茶なことを、女神だからって許されると思うなよ!そう言いたい気持ちはあれどやはり神なら許されるべきなのかも知れない。残念ながらそう思ってしまう自分も居た。
「そうは言ってもな〜、簡単じゃないぞイリス」
「別に急いで集めろとは言わないわ。あなたが無理なく出来る範囲でやりなさい」
「ま〜それなら……前処しますけど」
それからしばらく平穏な生活が続いた。
教会が立ちそこに女神イリスそして天使カミラが居る。これほど豪華で有り難みのある教会はないだう。俺も毎日通って祈りは捧げないが女神様とお茶をしながら談笑していた。
そしてそれから一週間後とうとう帰って来た。
…………▽
「タクちゃん〜元気だった〜」
「おかえり母さん」
母さん達が帰って来た。
久しぶりの再会だからか会った途端に抱き締められる。嬉しいな〜と普通なら思ったんだけど、母さんが着ている服にところどころ赤い物が………これってまさか!?
「ただいまタクト、大丈夫だよ。それは母さんの血じゃない」
「おかえり父さん」
そっか良かった〜……でも血なんだ。乾いているからついさっきのことじゃないけど戦闘があったてことか、やっぱり行かせない方が良かったな。
「あ!あれ?」
一瞬誰だか分からなかった。ノルンも少し戸惑っている。
父さんと母さんの後ろにバロン様とスカーレット様が居るのだが、雰囲気が違い過ぎて反応出来なかった。バロン様はいつもはピシッとしたタキシード姿なのだが、今は赤と黒色の服装に軽装を身に着けている。スカーレット様は基本ドレス姿しか見たことがなかったけど、今は狩人に見える。灰色の服装でフードをかぶり、いつもの華やかな雰囲気が一切ない。そして何より戦士としての威圧感が凄かった。
「ノルンすまない、久々に戦場に出たのでな。切り替えが出来ていなかったよ。少し落ち着かせてくれ」
バロン様とスカーレット様の気配が薄くなり威圧感が消えた。
「ふぅ〜久々だったから疲れたわ。感覚を戻すのって結構時間がかかるのよね。貴族での生活に慣れ過ぎるのも良くないわ」
フードを取ったスカーレット様はいつもと違い化粧をつけていなかったこと、それでも十分綺麗でむしろいつもより魅力的に見えた。
バロン様はノルンと話をしてからボクの方に歩いて来る。
「タクトくん、待たせてしまったみたいだね。その様子だとタクトくん達は目的の資金調達は出来たようだ。もちろん私達の方も色々と分かった。それについて話をしたい。時間の方は大丈夫かな?」
バロン様は少し慌てているように見える。だけど今帰ったばかりだし少しは休むべきだ。
「バロン様、その前に休んだ方が良いですよ!食事の方もまだ済まされていないですよね。少し早いですけど今から準備しますのでお休みになって下さい」
「確かにその通りだ。すまない気を遣わせてしまって、少し焦っていたかも知れない。タクトくんありがとう。やはり君にしかノルンは任せられないな」
話をいきなり変えないで下さいバロン様!ノルンが後ろでギャ〜ギャ〜言ってますよ!
「オホン、それにしてもいつの間に教会を建てたんだい。少し小さいが立派な建物じゃないか」
バロン様……話をそらしましたね!
「いや〜良いじゃないか、セルギウス(神父さま)に頼まれたのかい、まったくワガママを言うものだ、タクトくん困ったらいつでも言ってくれて構わないから、神父だろうが私がガツンッと言ってあげるよ」
バロン様は教会の扉を開く。
「ん?君は……新しい住民かな?こんにちは、私はバロン」
「あら、おかえりなさいバロン、私はイリスよ。宜しくね」
あー!?しまった!バロン様達に説明してねぇー。
「ほぉーイリスとな……女神様と同じ名を頂くとはとっても良い子なんだろう。ヨシヨシ」
ノォ〜……やっちまったーー
バロン様はイリスをただの子供だと思い頭を撫でる。無礼極まりない。
「そう、女神イリスはお好きかしら」
イリスは無垢な笑顔で微笑む。
はぁ〜良かった。怒ってない。
しかし本人はともかく怒っておられる方達がいた。
ガシッ……バロン様の方に手を置く神父さまが現れ、イリスの頭に置いた手をアボロンが払い除ける。
「アボロンくん…それにセルギウス…どうしたんだ?」
「バロン様とは言えやって良いこととやっていけないことがある」
アボロンはバロン様の手を引き、
「バロン、ダチだからこそ言わないといけないことがあるのさ、しっかりと教えてやるから安心しろよ!」
もう片方の腕を神父さまが拘束し、そのまま二人はバロン様を連れて離れていく。バロン様は理由がわからなかったが、尋常じゃない雰囲気に何も言えず、そして二人から猛烈な説教を受けたそうだ。
この後、バロン様は自分のしでかした罪を女神本人の前で懺悔した。お疲れ様です。