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第137話 イグニスの想い


 下層階、多くのドラゴンが生息する領域、冒険者にとってここほど過酷でそして金になる場所はない。通称ドラゴンパレードと呼ばれ恐れる憧れの場所。


 そして俺達は下層階に着いた。

 さて、ここからが本番だな!

 ゆえに……一度休憩を取ろう!


 飯を食べて軽く身体を拭いて寝るか。

 もちろん警戒は怠らない。必ず見張りを立てて寝る。抜かりはないぜ!


「な〜な〜タクト」

 カンナが背中を叩き喋りかけてきた。


「ん?どうしたトイレか?だから飲み過ぎだって言っただろ」


「ちゃうちゃう、トイレはさっき行っとるでぇ!それにそんなにしょっちゅう行っとれへんわ!トイレキャラにせんとってぇ!」


「なんだよトイレキャラって?それは置いといて!何が言いたいんだカンナ」


「一回家に帰ろうや、みんな疲れとるやろ」

 

「はぁ!」

 カンナの言っている意味、確かに、なんで気が付かなかった。帰ればいいじゃん!こんな危ないところ。


「くぅ〜ボクはアホだった!」


「せやな」


「やかましいわ!いちいち反応すんな!……でもありがとう」


「いや〜照れるやん!そんな面と向かって言われると、でもも〜っといってぇ〜や」


 俺達はカンナの作った特別な異空間にある家に帰ることにした。

 

 空間転移……本当に便利だ。魔力をアホほど使うが、この便利さを考えると納得が出来る。


 俺達はダンジョンから一度戻り、それぞれ半日ほど休むことにした。俺とカンナ、ニキは家に戻ると、その横に大木がそびえ立っていた。


 なんだこれ?いつのまにこんな物が生えた。いくらなんでも成長し過ぎだろ。


「なんじゃもう戻ったのか?」

 

 ローム先生が木から生えていた。

 何やってるんだよこの先生は?


「いえ、ちょっと休憩です。またすぐに出て行きますけど、何やってるんですか先生」


「何をとは何じゃ?我は芸術的な家を作っているのじゃ、どうじゃこのそびえ立つ漲る生命の鼓動、そして枝の角度、アンバランスでありながら見る。角度によってはシンメトリーが取られておる。これにさらに実をならす。そしてこの木を見ながらそれを食べるのじゃ!」


「結局食欲なんですね先生」


「違ーうのじゃ!それだけで終わらせるでない!良いかタクト、美しいものを見て食べる。これこそが至福であり我が芸術なのだ!その辺が周りの者は分かっておらん。何故分からんのじゃ!」


 ん〜結局食欲が全てな気がするけど、先生的には違うのか、確かに料理は見た目も重要とは言うけど一般的にはそこまでこだわらないからな。


 俺は大木を見上げる。

 確かにすごく綺麗だ。見るものを圧倒する迫力と先生こだわりの剪定がされて芸術的である。食欲の話を抜けばそれなりに腹落ち出来るんだけど……


 先生はまだ仕事を続けるとのことで、俺達は家に入り、軽い食事で済ませ就寝した。



……………▽


 起きると両サイドにカンナとニキがぐ〜すかと寝ている。俺はこれ以上寝れそうにない。ゆっくり起こさない様にベットから降りるともう一度大木でも観賞しようと外に出る。


「あ!」

 

「よぉ!帰ってたのか?」


 ドアを開けるとイグニスが歩いて来た。


「うん、ちょっと休憩、それでイグニスは何をしに来たの?」


「うん?あ〜これよ〜」

 イグニスはビンを片手に持ち上げる。

 日本酒……そう言えばこの間の食事の時えらく感動して飲んでたっけな。


「ロームさんと飲もうと思ってな。ここ最近このくらいの時間になったら、これ持って顔を出してるわけよ。一人で飲むのも悪くはないがロームさんは結構飲める口みたいでな、付き合ってもらってるってわけよ」


 なるほど、それで日本酒片手にここに……にしても、イグニスがカミラさんの旦那とは、なんか納得が出来ん。正直ひがんでいる自分がいるのは自覚しているし、イグニスは火の勇者、特別な存在だからモテるのも分からんでもない。でもパッと見、モッさいおっさんなんだよな〜顔がカッコ悪いかけじゃないけど、どうやってカミラさんを落としたんだ。気になる。


「イグニスあのさ……」


「どうしたタクト?」


 何を聞くつもりだオレ!

 そもそもカミラさんの件があってイグニスは一時期闇落ちしてたんだろうが、その辺のことを思い出させるようなこと聞いてどうする。空気読めなさすぎだろうが!冷静になれオレ。


「どうしたタクト悩みか?そんなに難しい顔して、よっしゃ!大人のイグニスさんが少年の悩みを聞いたやろうじゃないか」


 変な方向に勘違いされた。

 上手い言い訳が思いつかず、そのままイグニスに連れられて、大木の出っ張った根っこに座る。


「どうした。言ってみろ。悩みって言うのは簡単にどうにか出来ない。だから悩むものだが、もしかしたら一人では無理でもみんなからなんとか出来るかもしれない。それに話すだけでも気が楽になることもある。さ〜おじさんになんでも話してみなさい」


 メッチャ優しいなイグニス!?

 いつもこんなキャラだったか?

 どっちかと言うと、面倒臭がるタイプに思ってたけど、今日はやけにからみ優しい!


「いや〜実はな昨日久しぶりにカミラが夢の中に出てきたんだ!俺が悩んでいるといつも声をかけて優しく話を聞いてくれた。まるで天使の様な女だったよ。だからよ俺も真似してみようかと思ったけど、やっぱガラじゃないな〜。なんか言ってて小っ恥ずかしくなったわ!ガッハハハ」


 結局イグニスはイグニスだった。でも丁度良いか。


「ねぇ〜イグニス、カミラさんに今でも会いたい?」

 イグニスは笑顔から神妙な顔に変わる。そして

「当たり前だろ!俺がこの世で一番愛した女だ!もう一度会えるなら命だってかけてやるさ!」


 イグニスの表情は真剣そのもの、聞いただけなのに、なんかこっちも熱くなる熱気、想いがビシビシと伝わったよ。



「そう……分かった。その表情と言葉を聞けたら十分だね!イグニスが羨ましいよ!そんな相手が居るんだから、ま〜期待しててよ!いい子にしてたらボクが頑張って………プレゼントをあげるからさ!」


 俺は立ち上がり歩き出す。


「はぁ?おい!どういう意味だよ?それに悩みは良いのかよ!」


「もう解決した〜。イグニスはしっかりとここで待っててくれれば良いから〜」


 俺は歩きながら手を軽く振り、ダンジョンに戻る為にみんなを呼びに行った。


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