第133話 受付嬢シャティー
俺達はジェーさんに連れられて依頼書が貼ってある冒険者ボードに向かった。
「へぇー色々ありますね」
ボードは三つ設置されており、右から順番に依頼書が多く、左には数枚しか貼ってない。何か意味があるのか?
「みんなにはボードについて説明しておくわね。ボードは三つに分けられてるけど、これはダンジョンの階層を示しているの、ダンジョンは上層、中層、下層に分けられて、右のボードは上層、比較的一般冒険者が行く場所ね。ゴブリンとかオークとかが居るわよ。それで真ん中のボードが中層、中級冒険者が行く場所でオーガやミノタウロス、大型の魔物が蠢く場所、そして上層、前にも言ったけどここはドラゴンの巣よ!火竜は勿論のこと地竜や水竜までいるわ。ここに入るのはAランク以上の冒険者のみね」
なるほどだいたい分かった。それを踏まえてボードを確認しょう。
でもその前にやっぱり下層が気になるような。先にそっち見よ〜と。
俺は下層のボードを見ていると、何か硬いもので押し退けられた。
「どけ!邪魔だ。お前には用がないだろう」
俺はたたら踏みながら止まる。
俺を押し退けたのは重厚な鎧を来た戦士、いかにも冒険者って感じではあるが、人当たりが悪い。むむ、これはさっきの続きの洗礼かな、それなら負ける訳には行かないよな!
「あんたこそ邪魔だ!どけ!」
俺はこっそりとハンマーで戦士の脇腹をコツク。
「おぉ!!」
足を踏ん張り衝撃耐える戦士、これくらいやっておけば舐められないだろう。
「今やったのはお前なのか?」
ギロリと俺を睨む戦士の男、俺も負けじと睨み返す。
「さ〜どうかな、突然押されるのはここでは良くあるのでは?」
「ほぉー面白いガキだ!俺にそんな目を向けるとは」
何故か感心されたが、それなら洗礼は終了かな?
「ま〜良い、今回は多目に見てやるが、あまり出過ぎた真似はするなよ!ここは荒くれ者も多い気をつけることだな」
戦士の男はそのままどこかに行ってしまった。良し!これでじっくり見える。
「アホなの!もう!」
「あ、痛い……何するんですかジェーさん」
何故かジェーさんに頭をコツかれた。
「タクトちゃん、面倒事をワザワザ作らないで頂戴」
「面倒事?洗礼では?」
「違うわよ!さっきやったばっかりでやるわけ無いでしょ!バカなの!しかもよりにもよって『轟連合』に手を出すなんて面倒事よ!」
「何ですかそれ?轟連合?」
「このギルドの最大派閥の一つよ!主にAランクBランクで構成された凄腕集団よ。特別荒っぽいことはしないけど、目をつけられて潰されたパーティーは数知れず、だから彼らには誰も逆らわないし関わる人も少ないのよ」
「あちゃ〜勘違いした」
「はぁ〜タクトちゃんったどこか抜けてるわよね」
「すいません」
「いいわよ!何とかなるでしょ。あなたなら」
ジェーさんは笑って許してくれたけどえらい信用されているみたいで逆に恐縮してしまう。それから適当に依頼書を見て、食事を取ることにした。テーブルに着くと店員さんが来て適当に頼んで食べたけど、結構美味しかった。そして何より多い、満足感が半端なかった。
「タクトちゃん、資金なんだけど実際どのくらいを目標にしているの?」
「う〜んそうですね。正直何も考えてなかったです。だけど、下層のドラゴンを討伐することを考えれば五十億ウェンくらい欲しいですね」
「あらま〜凄い金額、流石はタクトちゃん、目標は大きくってね!」
「えっと、多すぎましたか?」
「勿論多いわよ!だけどタクトちゃんならやれるような気がするわね!それなら大物を狙わないと」
ジェーさんは一枚の依頼書をテーブルに置く。
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【オーガドラゴン討伐】 ランク:A+
推奨パーティー Aランク以上
詳細:オーガドラゴンの角を納品
報酬:五十億ウェン
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報酬五十億ウェン、こいつだけで目標達成だな。でもオーガドラゴンなんて聞いたことないけど。
「あなた達バカな真似は止しなさい。受付嬢の立場から勿論止めるわよ」
先程の受付嬢シャティーさんに依頼書を渡したら思いっきり怒られた。
「そもそも何でいきなり下層なのよ!冷静になって考えなさい。無謀にも程があるでしょ」
シャティーさんがバンバン机を叩くから周りの冒険者達が騒ぎ出してる。
「何でよ!良いでしょ!別に決まりはないんだから」
「そう言う時の為に私達受付嬢が居るのよ!無謀なアホ冒険者が死なないようにね!」
ノルンとシャティーさんがうぅ〜と唸りながら睨み合う。
「あの〜一応ドラゴンバスターのジェーさんが居るので大丈夫かと……」
「それは確かに、でもジェット様ですらオーガドラゴンの討伐には成功しておりません!それにジェット様、大剣ギガントバスターはどうされたのですか?」
そうだ!俺が壊したんだけか……
「問題ないわよ。それ以上の力が今はあるのだもの、シャティー行かせて頂戴」
シャティーは唸る様に考え込み、ジェーさんに顔を向ける。
「ジェット様、見た目もそうですが大分お変わりになったようで、私共は冒険者の命を守ることが義務で御座います。申し訳ありませんが許可を出すことは出来ません」
シャティーさんは深々と頭を下げる。
受付嬢に誇りを持った所作と感じた。ならば、俺達はそれに応えるべきだ。
「分かりました。シャティーさん。ではこうしましょう。私達が種類はともかくドラゴンを討伐して納品したら許可を下さい」
「えーっとタクトさん、それ自体も難しいのよ。」
ちょっと呆れられたか、ま〜仕方がない。だからこそ信用される実績を見せないといけない。
「シャティーさん任せて下さい!絶対にやって見せますよ!」
俺は拳を突き上げやる気を見せた。
「あら可愛い子、だから余計に言ってほしくないのたけれども、その様子だと止めても無駄なのね。良いわよそれで、ジェット様無茶だけはしないで下さい。冒険者で最も必要な能力は相手の力量を見極め、引き際を判断し実行することと私は思っております」
「えー分かっているわよシャティー、これでもワタシAランク冒険者ですもの、任せて頂戴」
「分かりました。皆様がご無事にお戻りになるようお待ちしております」
シャティーさんは頭を下げて見送った。
いや〜最初は嫌な人かと思ったけど、むしろメッチャ真面目に仕事をしている人だった。




