第126話 魔導ショップのおっさん
「ふ〜う、今日は暑いな〜」
「まったくだ!汗が止まらん」
俺の横でヒィーヒィー言いながら歩いてる。汗まみれの魔導ショップのおっさんが居た。
「本当に良かったんですか、ボク達について来ちゃって?」
「何だよ。俺達が良いって言ってるんだ。坊主が気にすることじゃないぞ」
「う〜ん。そうなんだけどさ〜気にはするよ!」
…………▽
時は少し遡り何でおっさんがついて来ることになったかと言うと……
バロン様の話が終わり、それぞれ思うところはあれど受け入れた。俺が外に出て気晴らしに散歩に出た。少し歩いたところで魔導ショップのおっさんが前から歩いて来る。
「あ!魔導ショップのおっさん!生きてたんだ」
あれから一度も見かけなかったから死んだかと思ってたけど良かった良かった」
「おい!言い方が冷たいぞ!おっさん悲しいじゃないかよ」
「いやいや、そんなつもりじゃないからさ、生きててよかったよ!お金も返して貰ってないし」
「ガクッと来ること言うな!わぁってるよ!ちゃんと返す」
「ごめんごめん冗談だよ!それでおっさんは何してるの?」
「ん!……情報収集だな」
「ふ〜ん……隠さないんだ。意外、おっさんがどう誤魔化すか楽しみにしてたのに」
「坊主は本当にくえねぇ〜奴だよ。
分かってて話しかけにくるんだからよ」
「ま〜ボクは気がついてなかったけどね」
バロン様が話をしている最中、妙な動きをしている奴が居るとニキが教えてくれた。俺はただのそいつがいる方に歩いただけ。
「一応聞くけど何のつもりかな〜今ボク達、ピリピリ
してるから言葉は選んだ方が良いよ」
おっさんの頬に汗が流れる。
「くっ……本当にただの子供かよ。すげ〜威圧感だ立ってられねぇ~よ」
おっさんは足を生まれたての子鹿の如く振るわせ、ちょっと面白い。
だけど、これ以上は可哀想だな。
「おっさんちょっと待っててね!」
俺は後ろを向き声を掛ける。
「母さん〜ちょっとやり過ぎかも〜緩めて〜」
「は〜いタクちゃん〜」
母さんの声が響いてきた。
思っていた以上に離れた位置から威圧していたみたい。母さんって一体……
「おっさんこれで大分楽になったでしょ」
「あ〜今は何ともない。何だよ坊主がやったんじゃないのかよ!」
「うん、ボクには無理、あと言葉には気をつけてね!さっきよりヤバいのが来るかも知れないから」
おっさんは口をつむった。
「さて、話を戻そうか、単刀直入で聞くけどおっさんの目的は何?」
「おう、話が早くて助かる。俺達も連れてって欲しい」
「ん?理由が分かりませんね。どう言う方法を使ったのかは分かりませんけど、話を聞いていたのでしょ。危険な旅になりますよ」
「それは分かってるさ。それを踏まえて連れてって欲しいのさ。理由についても話をする。秘密はなしさ。ちなみにどうやって話を聞いたかと言うと、こいつを使った」
あっさんは三十センチくらいの筒を出す。
「これは俺が作った魔導具だ!指向性に優れた道具でな。遠方のある一点の区域の音声を聞くことが出来る。これを使えば盗み聞きし放題だぜ!」
「なるほどおっさん凄いな!でも悪いことにしか使えなくないか?」
「ま〜そこは使い手の良心次第ってことで」
「それでおっさんはどうなのさ〜」
「もちろん善意100%と言いたいところだが、俺は商人なんでね。損得勘定して生きてるのさ。坊主について行きたい理由はもちろん得があると思っているからだ!」
「う〜ん、やっぱり分からないな〜どこに得があるんですか?俺達の旅は危険なんです。むしろ損しかないと思うけど……」
俺は首を傾げる。しかしおっさんはそうは思ってはいなから諦める様子はない。
「なぁ〜に、難しいことじゃないさ、今まで通り俺は素材が欲しいのさ、坊主と居ればそれが叶う。もちろんただなんてことはない。俺は坊主が欲しい魔導具を作ってやる。お互いに得な話だろう」
あ〜おっさんの馴れ初めの件ね。
国一番の魔導ショップを作るんだっけか。
「確かにボクもおっさんの魔導具には興味があるけど、魔導ショップを作るどころか死ぬかもしれないよ」
「はぁん!商売は命がけよ!俺はそれだけの覚悟を持ってやってるんだ!だから連れてけ」
「いや、ダメだけど」
「何でだよ!今のはOKの流れだろ!」
「だっておっさん怪しいし〜」
「怪しいくないわ!」
「ま〜疑いたくはないけど、おっさんがゴエティアのメンバーじゃないのを証明出来ないんだよ。あいつらどこに潜んてるか分かんないし」
「あ〜なるほど、言いたいことは分かった。ならば脱ごうじゃないか!」
「いや!?なんでそんな話になる。ボクにはそんな趣味はない!」
「俺も坊主に見せる趣味はねぇ〜よ!なんだよ。知らないのか?ゴエティアのメンバーには呪印と言われる印が身体のどこかにあるのをよ!」
あ〜そんなのあったわ。それで脱ぐ話になるのか、でも確認するの、俺イヤなんだけど!
「仕方ないだろ!それが一番手っ取り早いんだから、ほれほれ確認しろ〜」
おっさんはどんどん服を脱ぎマッパになる。
「どうよ!どこにも呪印なんてない!」
「分かったよ。ないないどこにも無い」
気分が滅入る。しかしおっさんの本気度は伺えた。其辺の道端でマッパになる勇気は俺には無い。
ん!イヤ待てよ!おっさんは証明されたけど奥さんのエルシーさんはどうするんだ!見て良いのだろうか?
「ダメに決まってるんだろうが坊主!」
えー声を出してないのに〜
「そんなもん顔を見れば分かるわ〜」
流石は商人…良く見ていらっしゃる〜。
こうして半ば無理矢理おっさんとエルシーさんもついて来ることになった。
…………▽
時は戻り、旅に出て間もなくのこと……
「も〜う!なんでこんなに暑いのよ!私達が出る前までは曇ってたのに〜」
ノルンも相当参っているようだな。
イライラしてジタバタ暴れ始めている。
「嬢ちゃんの言う通りだぜ〜。こりゃ〜今度は涼しくする魔導具を作るぞ」
身体をふらふらさせておっさんがやって来る。
「くさぁー!」
俺とノルンが鼻をつまむ。おっさんから悪臭が漂って来た。どうも汗を大量にかき、生乾き臭がすごい出ている。
「くちゃい!タクトなんとかしなさいよ!」
「え〜なんとかって、ノルンは簡単に言うな〜。ま〜なんとか出来るけど」
「え!タクト、何か良い方法があるの?」
「ま〜ねぇ〜、それでは『エアコンOn』設定温度は25度で!空間範囲はボクの周辺10メートル」
「………あれなんか涼しくなったかも」
ノルンの表情が笑顔に変わる。
「すげぇー!まさか魔導具か?」
おっさんは魔導具と勘違いして驚く。
それから他のみんなも涼しくなったことに驚き、あとで流石はタクトとみんなからは褒められた。
その数日後、おっさんは携帯型のエアコンを製作。まだ出力が低いと言う問題はあるものの商品を作る意欲と技術の高さが伺えた。やはりおっさんは今後かなり役に立つ人材になってくれそうだ。
そんなおっさんと妻のエルシーを加えて、俺達は当てのない旅に出ていた。