第120話 イグニスの謝罪
「待ってくれ!ミルキー落ち着こう」
「奥さん、早まっちゃ〜いけない」
「私がいけないの!もっと私がしっかりしていれば〜(泣)」
こっちはこっちでカオスと化していた。
俺達があんなに騒いでいたのになんで来なかったんだろうとは思っていたけど、こっちでもトラブルが発生していた。
「私なんて!私なんて!………」
母さんは手を頭に当てようとして、それを何故か二人が羽交い締めにして止めている?
「母さんどうしたの?大丈夫?」
「はぁ〜タクちゃん〜」
母さんは父さんとイグニスを振り切り、俺に抱きつく。俺はそんな母さんを見てなんとなく頭を撫でた。
母さんはニコニコしている。
うん!正解ルートだね!
「で!どうしたの父さん?」
はぁーとため息を出し疲れ果てた父さんとイグニスはヨロヨロと立ち上がる。
「やぁ!おはよう。体調はもう良いのかタクト」
「うん!全然問題ないよ!むしろ身体が軽くなったみたいだ」
「そっかそれは良かった。きっとアスモデウスを倒してレベルが急激に上がったんだろう。身体能力がかなり上がったはずだ」
「あ〜それでか!」
確かに今回の戦いでレベルが10くらい急激に上がったから体感でも分かるんだ。
「そうだ!父さん……母さんどうかしたの?随分と暴れてたけど」
あんな姿の母さんはあまり記憶にない。日頃から穏やかで笑顔しか見たことがない。でも昔、同じ様に暴れ出たことがあった。あの時は俺がタンクくん達にイジメられて顔にアザを作って帰った時だ。偶然居たバロン様と父さんで母さんを抑えつけていたのを思い出した。
「あ…まあ〜な、タクトが気にすることじゃないんだ。母さんはタクトが危ない目にあって動揺したんだよ。自分せいでタクトが死にかけたって、自己嫌悪てやつだよ。母さんのせいではないとは言っているんだがな〜。それにもしそうなら父さんにも責任はある。タクト済まなかった。父さん力になれなくって」
「ちょっと待ってくれ!責めるなら俺だろ!ブラックさんとミルキーさんは悪くねぇ〜責めるなら俺を責めてくれ」
イグニスは頭を下げ謝罪する。
「う〜ん……ま〜それぞれ思うところはあると思うけど、俺は無事だし怒ってないよ!だからそんなに謝らなくて良いよ!もしもそれでも自分が許せなかったら、この後の行動に期待だね!」
少々上から目線な言い方になってしまったが、俺としてはノルンが無事だったし、大分心が落ち着いている。今は穏やかな気分だ。
「母さんもボクは無事だし、母さんは何も悪くないからさ。いつもみたいに笑って欲しいな!ボクは母さんの笑顔に癒されているんだもん」
「ホント!?」
母さんは幼い子どものようなあどけない顔で不安そうに俺を見る。
「うん!ボクが母さんに嘘をつくわけないじゃん!」
母さんはニパァ〜っと笑顔を咲かせた。
これで母さんは大丈夫、そうなると問題はこの後のことだな。
「父さん、この後は町に戻るんだよね」
「一応そのつもりだよ。何かあるのかタクト?」
「ん〜そう言う訳じゃないんだけど」
俺は少し間を置き、イグニスに声をかけた。
「イグニスも一緒に来てくれるよね!」
「………ふ〜当たり前だよな!どの顔下げて戻れば良いのか分からないが、これは俺が行った罪、しっかりと受けさせてもらう。声をかけてくれてありがとうよ!タクト」
「いえいえ、どう致しまして、さてとこれで町にみんなで帰ることは決まったけど、もう一つ聞きたいことがあるんだけど、父さん達は何者なの?どう考えても一般人じゃないよね〜」
母さんの顔が一気に強張る。
父さんはいつも通りで大きな表情の変化はない。
「タクト悪いんだけど、それは言えない。何故かと言うとある人達に口止めされていると言うのもあるけれど、父さんと母さんがタクトに知ってほしくないんだ。申し訳ないが聞かないでほしい」
「うん分かったよ!ボクとしても父さん達が嫌がることはしたくないし、ただ一つだけ言っておくね!ボクは父さんと母さんを嫌いになることなんてないから、ビシッと言っておくよ!」
その一言でブラックの目がうるっとしていた。そしてミルキーの震えは止まっていた。
俺はそれに笑顔で応える。
その姿を見たイグニスの口元は笑っていた。
それから数日かけて町に戻る。
……………▽
あれ?人の気配が全然しないぞ。
以前町のみんなが避難していた場所には誰もいない。廃墟となった町の周りを探す。
「あ!あれってもしかして……スカーレット様?」
バロン男爵の屋敷で焚き火で暖を取りながら本を読んでいるスカーレット様が居た。見つかって良かったけど、いつもと服装が違う。今の状況からドレスじゃないのは分かるけど、一般庶民が着る地味なブラウスとスカート、スタイルが良すぎて一般人には見えないけど、いつもとのギャップにビックリだ!
「あら?やっと戻って来たようね。待ちくたびれたわ」
スカーレット様は俺達に気づくといつもの様にそっけないことを言うと、すぐに目線をノルンに向けた。
「おかえりノルン、怪我はしなかった」
「お母様……はい!怪我はありません」
「そう、それは良かったわ。バロンも心配しています。早く顔を見せてあげなさい」
スカーレット様ほいつもより柔らかく優しい言葉にノルンの目から涙が流れた。
スカーレット様がノルンを心配していたことが伺えた。
そこにバロン様が薪を持ってこちらに歩いて来る。
「戻ったか……ノルン良く無事で帰った」
「お父さま〜」
ノルンはバロン様に抱きつき、優しく受け止め抱き締めた。
「良く頑張ったな!よしよし」
バロン様はノルンの頭を撫でる。
「バロン……俺は」
そこでイグニスがバロンの前に立ち、ノルンが空気を読み、バロン様から離れる。
「イグニス……」
「恥を忍んで戻った。本来お前に見せれる顔を持ち合わせていないことは分かっている。だが俺はもう逃げねぇー!俺に罪を償う機会をくれ!本当にすまなかった!」
イグニスは地に頭を伏せ謝罪をした。
「良く戻ったな!嬉しいよ。イグニスお前は戻って来ないかと思っていた。話は聞かせてくれるのか?」
「おう!話を聞いてくれ……」
二人は少し離れた場所に腰を下ろし話をした。
バロン様はイグニスの話を聞いてどう思うのか、そして何を決断するのか、それは分からないけど、俺にはバロン様がイグニスを心配している様に見えた。自分を斬った相手なのに……その姿を俺は不思議な目で見ていた。