第12話 ドラゴンとの戦い
アンディーは一人逃走、すでにまったく見えないところに行ってしまった。逃げ足が恐ろしく速い男だあの野郎はあとでぶっ飛ばすとして、今は目の前の敵をなんとかしないとな。
俺は見上げる。
「無理だよな〜アレは……」
ドラゴンがバサバサと翼をなびかせながら飛んでいる。きっと離れた場所から見れてれば感動出来るカッコ良さなのだろうが、今は殺される恐怖しかしない。
足が…すくむ。
頭の中は恐怖に包まれ動けない。
ドラゴンは口を大きく開き火を俺達に向かって吹く。「ゴー」と押し寄せる火の壁、当たれば骨すら残らない高熱、あ〜俺また死んだかも……やや現実逃避をしているその時、声が聞こえた。
「何やってるんや!ウチを使いや!」
俺の腕にはツールボックスが現れた。
「はよ〜ウチを開くんや!」
俺は慌ててツールボックス(カンナ)を開いた。
押し寄せる火の壁を凄まじい勢いでカンナが吸い込んでいく。さっきまであった火は消えてなくなった。
「え!?……火が消えた?」
「ふっふ〜ん、どんなもんや!ウチにかかれば楽勝なんや」
「今……何やったんだよカンナ」
「ウチの中には無限の空間が広かってるんや!あのくらいは楽勝で収納出来るんやで!」
スゴー、つまりドラゴンの火をカンナがすべて吸い取って守ってくれたのか!
「カンナありがとうな!助かった」
「へ!?そ、そんな事大したことあらへんよ〜」
カンナはカパカパとテレている。
「おい油断するな!まだ終っておらんのじゃ」
ローム先生に一喝され、一気に現実に戻される。そうだ、まだ防いだだけで、ドラゴンからの危機が去ったわけじゃない。
しかし、カンナのおかげで冷静になれた。ドラゴンの火は防ぐ事が出来る。それなら今から考える事は、
「先生、無理です。助けて下さい!」
「諦めが早い!と言いたいところじゃが、流石に
ドラゴンを相手に一人で戦えとは言わん!」
「せんせえ〜」
「頑張って逃げろ!我は離れた場所で見守ろう〜」
ローム先生がどんどんと遠くへ飛んでいく。
「…………え!?ちょっ、待って〜せんせえ〜」
無情にも先生は行ってしまった!
先生いくら何でも厳し過ぎるのでは!しかし文句を言っている暇なんてない。なんとしても逃げないと命はない。
「地の精霊よ!ボクに力を貸してくれ!」
地面から砂塵が吹き荒れる。相手は上空いる。こちらから攻撃手段がない以上隠れながら逃げる!
俺はドラゴンの視界を奪い、砂塵に隠れて走って逃げる。
しかし……「うわ〜」凄まじい突風で砂塵ごと俺は吹き飛ばされ木に激突。
「痛っつ〜……なんだよ。今のは?」
上空を見上げるとゆっくりとこちらにドラゴンが迫ってくる。
そうか、翼で風を起こして飛ばされたのか!
どうする。完全に俺がターゲットにされている。
他に逃げる方法は……
「な〜タクト〜さっさとあんな奴やっつけようや〜」
カンナがつまらなさそうに意味のわからない事を言っている。ドラゴンなんて倒せるわけないのに。
「カンナ!あんなデカいのどうやって倒せって言うんだよ!」
「これでやれば〜ええやん!」
ツールボックス(カンナ)がカバーンと開くと、中にはハンマーが入っていた。
ん?………これで殴れと?
「カンナさん、ドラゴンは飛んでるんで当たらないんですけど!」
そもそも当たったところであのドラゴン硬そう〜なんですけど?
「は〜別にあのくらいの距離なら大丈夫やで!」
「いやいや30メートルは離れて…ハウ!?」
ハンマーを手に取った途端頭の中に、そのハンマーの使い方が流れ込んできた。
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名称∶ハンマー
分類∶工具
属性∶空間
攻撃力∶☓☓☓☓☓
性能∶空間圧縮により万物を潰す
リーチは短い
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「え〜っと……ホイ!」
なんとなく分かったのでハンマーを振ってみる。
「ドカーン」
大きな衝撃音がして土煙が飛んできた。
「な、何が起きたんだ?」
土煙が消え視界が開けると地面にドラゴンが倒れており、身体の一部が陥没している。
何がなんだか分からず俺が呆然としていると、
「も〜うダメやないか〜ちゃんと取説は見んと、失敗しとるやないか〜」
え!?失敗なの?ちゃんと倒したんだけど!
※ちなみに取説とは取り扱い説明書の略
「ええか〜空間設定がしっかりとしとらんからぺしゃんこに出来とらんのや!」
カンナの説明によると、このハンマーは相手を叩き潰す道具で、今回のドラゴンに正しく使う場合、以下の手順を行わなければ行けなかったらしい。
①空間の座標設定、ドラゴンの上下に設定
②ドラゴンの下の空間を固定する
③ハンマーを振ってドラゴンの上の空間から衝撃を伝える
④ドラゴンは上の空間の衝撃でぺしゃんこになる。
今回俺は②の空間の固定をしなかった為、衝撃が逃げてドラゴンを落下させるにとどまった。
………別に倒せればどっちても良いのでは?
カンナいわく道具は正しく使いましょうとの事。
「さて〜アンディーの野郎の件もあるけど、このドラゴンはどうすっかな〜」
ドラゴンは滅多に人里には降りてこない。それに何より強い!倒す事が困難な魔物で、その素材は武器にも防具にもなり重宝され高く売れる。それに肉も非常に美味と聞いたことがある。楽しみだ!
「このまま放置するのは勿体ないな〜でもデカすぎて持って行けないし、どうしよう」
俺がドラゴンをどうするか悩んでいると、
「なんや!そんな事かいな〜ウチに任せとき〜」
ツールボックス(カンナ)がカパッと開くとヒューッとドラゴンを吸い込んだ!
「え!?カンナそんな事も出来るのか、スゲェー!」
「なんやそのくらいで、照れるやないか、さっきも言ったけどウチの中は無限に広がってるんや!なんでも吸い込むでぇー」
カパカパと嬉しそうに言うカンナ、どうやら俺は制限なしのアイテムボックスを手に入れたようだ。ラッキーこれで手ぶらで歩いて楽が出来る!
この時の俺は大した事を思いつかなかったが、実際はものすごく便利なスキル、今後の生活で非常に助けられる事になる。




