第118話 もう一つの戦い
◆タクトの父親ブラックの視点
タクトがもうすぐ町に帰ると聞き、急いで戻ることになったのだが、妻のミルキーはタクトのことが大好き、心配のあまり一睡もせずに森や山を駆け抜けて町にかなり早く帰った。
町に戻ると驚くべき状況が待ち受けていた。
なんと町は燃え我が家は崩れていた。気配を探り町の住民がいる場所に向う。すぐに近くに居た住民に話を聞くと、町はシャックス侯爵の兵士達によって襲われ、バロンが勇者イグニスによって重傷を負わされたと聞いた。そこまでだったらまだミルキーも我慢は出来ただろう。その後が流石に不味かった。ノルンがシャックス侯爵の兵士によって連れ去られ、それをタクトが救出に向かったと言う。相手は勇者イグニス、其辺のゴロツキとは訳が違う。本物の強者だ!これはかなり危険な行為。そんなことを聞いたらミルキーが黙っているはずが無い。すでに殺気が漏れ出ている。これでも抑えているのだろうが、一般人にはちときつい!私はミルキーが暴走する前に急いで町を出た。
シャックス侯爵が治めるグラムの町に向う途中魔物の大群に遭遇する。数千はいるであろう。これがどこに行くつもりかは知らないが、今の私達にはどうでもいい。息子のタクトが最優先だ。
私達は魔物に見つからないように、少し離れて移動していた。
「ブラック、この魔物達……グラムに向かってない?」
「あ〜そうだな」
ミルキーが言う通り、進行方向からこのままだとグラムに衝突する。タクトがグラムに居るのであれば急いで救出しなければ!
「ミルキー、急いだ方が良いかもしれない。タクトをみつけたらすぐに離脱するぞ!」
「ええ、分かったわ」
その時だった、微かに誰かの声が聴こえる。私とミルキーは暗殺者として鍛えられていた為、聴覚スキルが非常に高い、聞こうと思えば一キロ先の音も聞き分けることが出来る。
そしてミルキーがブチ切れた。
何を突然と思うかもしれないが、私にも聴こえた。
タクトを殺すと、聞き耳をたて内容を確認すると、コイツラはゴエティアのメンバーで九王の一人アスモデウスの命令によりタクトを殺しに来たと言う。一体何がどうなって、こんなことになったか分からんが許せん!タクトを殺すだと!
私は気配を殺し心の中で怒った。しかしまったく意味は無かった。すでにかなりの殺気を放つミルキーが傍に居る。もちろんすぐにバレる。
「タクトを害する者は全て敵、全員殺す!」
ミルキーは声がする場所へ飛んでいった。
「あぁ……怒りそこねた」
いつもそうだけど、ミルキーはタクトのことになると恐ろしいほど怒る。その殺気を受けるとどうしても自分は冷静になってしまう。
「私は冷たいのか………いやそんなことはない!私もタクトのためなら命を張れる。もう昔とは違う。タクト待ってろよ!父さんが助けるからな!」
私は自分と同じくらいの長さをした漆黒の大鎌を振り上げる。
「死の風よ!吹き荒れろ!『デスサイズ』」
私は大鎌を横に振った。
普通の人には見ることの出来ない黒い風、それに触れた者は、命を刈り取られる。
約五千の魔物の大群は、その一振りで半数以上が死に絶え、二振りで魔物大群は数百匹まで減ってしまった。
「このくらいにしておくか、これだけ減らしておけば、町の被害も最小限に抑えることが出来るはず、それにこの技は使い勝手が悪いから連発は出来ない。もしも誤ってタクトを殺してしまったら私がミルキーに殺されてしまう」
私は大鎌を背中のマントに当てるとズブズブと沈み込む様に入り大鎌を仕舞った。
「さて、やり過ぎる前にあっちに行くか」
私は叫び声が聞こえる方向に足早で進んだ。
……………▽
良かった!最低でも一人は生きている。
その場所にはミルキー以外に悪魔化した4人の化物達が居た。一人は私の足元で転がっており、腕がもげて両足は曲がるべき方向と逆に曲がっている。かなり酷い状態だけど死因は首だな。ねじ切れている。今日は一段と酷い。
ミルキーに視線を変えると、コウモリの様な黒い羽が生えるている男とヤギの様な鋭い角を生やした男がミルキーに首を掴まれて痙攣していた。どうやら痛みを流しているようだ。
ミルキーのユニークスキル『ペイン』
痛みを操る力、基本的な使い方は自身が受けた痛みもしくは他者から奪った痛みを自身に蓄積、相手に触れることで、その痛みを他者に伝えて倒すことが出来る技、使い方は他にもあるが今やっていることはそれだ!そしてそれが一定のレベルを超えると四肢がもげる!
コウモリ野郎とヤギ頭は爆ぜて絶命した。結局生き残っているのはあと一人。こいつからは話をきかないとな。
「ミルキー、待ってくれよ!コイツにはタクトのことが聞きたい。早く会うためにも我慢してくれ」
ミルキーがこれ以上暴走しないように出来るだけ落ち着かせる。
トラ顔の化物が鋭い視線を私に向ける。
「何者かは知らないが、俺はそいつらのようにはいかんぞ!アスモデウス様の部下で最強と言われる俺様に勝てると思うなよ」
「そうかそれは失礼した。あなたが強いのは見れば分かる。その丸太のような腕、胸もはち切れんばかりに張って、あなたがすごい力を持っているのが分かる」
「ふっふっふ、少しは分かっているようだな。良かろう。何が聞きたい」
「助かります」
脳筋さんで良かった。
「先ほどあなた達はタクトと言う少年の話をされていたかと思いましたが、今どこにいるかご存知でしょうか?」
「あ〜そのタクトと言うガキか、そいつには今から会いに行く」
「本当ですか!?それではいる場所もご存知と言うことですね」
「ふん、そいつは今シャックス侯爵の屋敷に居る。どうやら愚かにもアスモデウス様に逆らったようだな。しかもどんな手を使ったか知らんが、アスモデウス様が深手を負われて、我らに助けを求めてきた。あっとこんなところで油を売っている場合ではなかった。そのガキを握り潰しにいかねば」
「そうか、ありがとう教えてくれて、……もぅ良いよミルキー、良く我慢したね。殺っちゃおう」
「わがっだ!もう限界」
ミルキーは一瞬でトラ顔の男に近づき、顔面を鷲掴みにする。
「オマエのアタマをにギル」
「アアアァァァァォァ」
頭がメキメキと音を出す。
ミルキーは頭を握りそのまま上空にぶん投げた。
「そうだ、私からも君に与えよう!私の怒りだ!」
私は木を掴みトラ顔に向かって投げた。
トラ顔の男に突き刺さると勢いを増して更に遠くへ飛んで行った。
「さて、タクトを向かいに行こうかミルキー………あれ?ミルキー!どこに行ったんだ?」
いつの間にかミルキーがいない。まさかトラ顔の男を追っていったのか?これ以上殺っても仕方ないのに………うん?この気配は、………そうか近くにタクトが来ている。
私はミルキーが向かったであろう
タクトの下へと向かった。