第116話 無邪気なアトラスくん
「ふぅ〜助かったぞパイモン」
「危なかったね!アスモデウスくん、あと少しで消滅するところだったよ!アスモデウスくんはスキルが強すぎるから油断し過ぎなんだよ!気をつけないと」
「えーい!忌々しい人間め!お前達などただの家畜だということがまだ分からないのか!今度はズタズタに引き裂き喰ろうてやるわ!」
「ふ〜ん……頑張ってね!」
アトラスはつまらなそうに言った。
ここはアトラスが特別に作った異空間、見た目は屋敷の居間のような場所になる。
アトラスは宝石の付いた透明な壺を手に取る。
「ん!?それはなんだ?パイモンよ」
「あ!これ〜さっすがアスモデウスくん、目の付け所が良いね〜」
アトラスは見せつけるように壺をアスモデウスに向ける。
「ほお!不思議な気配を感じる。かなり特別な壺のようだな」
興味を持ったアスモデウスは覗き込むように近づく。
「おぉぉーー!?何だこれは、す、吸い込まれる〜」
ケムリのようなアスモデウスは壺にぐんぐんと吸い込まれて壺の中に入ってしまった。
「な!?何をしたのだ!パイモンよ!ここから出すのだ!」
「うふふぅ〜……ダ…メ…だよ〜、アスモデウスくんはこれからはボクのおやつなんだから」
「なんだと!?それはどう言う意味だ……」
アスモデウスの驚く声が壺越しにくぐもって聴こえる。
「うふふぅ〜、言うよりもやってみれば分かるよ〜」
アトラスは壺に細長い金属の筒を突き刺すとそれを使いストローの様に壺を吸った。
「うおおおーー何だこれは!?まさかパイモン、我を喰ったのか!」
「ん〜アスモデウスくんは甘いね!ちょっと甘ったるいかな〜、でも大丈夫だよ!そのうちボク好みの味に変われるからさ」
「キサマ、我を取り込み…力を得る。それが狙いかー!」
「ん〜ん〜違うよ!確かにアスモデウスくんを食べればスキルと魔力の向上に繋がるけど、それは二の次かな?ボク食べるのが好きなんだ。特にアスモデウスくんみたいな悪魔の王が手に入るなんて滅多にないからね!大事に食べるよ!前みたいに美味しいからって食べきっちゃったら再生しないからね」
「キサマ……まさかここ最近行方知れずのベリアルも喰ったのか!?」
「うふふ、どうだろう、それよりも良いよ!アスモデウスくんから恐怖を感じる。今度食べたらきっと味がビターに変わってボク好みになってるよ!でも今は食べちゃダメだ!我慢しろボク」
アトラスはアスモデウスが入った壺を持って奥の部屋に入ると、たくさん並んでいる棚に置く。棚には同じようにたくさんの壺が置かれて、嘆く様な叫び声が飛び交っていた。
「またね!アスモデウスくん元気にしててね!バイバイ」
アトラスは無邪気に手を振って部屋をあとにした。
……………▽
アトラスが去り、俺はノルンを起こしていた。
「お〜い!起きろ!ノルンもう大丈夫だぞ!」
「ん…ん〜………あれ?私……どうしちゃったの?」
ノルンがばあっと勢いよく起き上がる。
「大丈夫だから!ノルン落ち着いて!」
焦ってキョロキョロと周りを見渡すノルン、どうも記憶は曖昧みたいだけど、恐怖をなんとなく覚えているのだろう。顔がだいぶ強張っている。
「タクトアイツは!ジャックはどうしたの?」
「倒した。正確に言うとジャックに取り憑いていたアスモデウスを倒しただけどね!」
本当に逃げられたけど今は安心させるためにも倒したことにしておこう。
「そうなんだ……タクトが倒したんだ。すごいね」
ノルンはモジモジしながら褒めてくれる。
ここ最近可愛気が表面に出て来たな。良いことだ。とか、そんなことを考えてる暇はない。急がないと悪魔達がこの町にやってくる!
俺は急いでノルンに説明をした。
「それでタクトはどうするの?」
「もちろん逃げるよ!そんな数相手に出来ないし」
「そうだよね。いくらなんでもそんな数相手に出来ないよね。でも……この町はどうなるの!」
「うっ!……う〜ん、それは……」
恐らくこの町は悪魔に蹂躙され滅ぶ。統治者も居らず指揮するべき人物も居ない中、防衛が上手く機能する可能性は低い、きっと多くの人達が死んでしまうだろう。……だからと言ってどうする。俺達だけで倒せる数か?五千だぞ!どう考えても一瞬で踏み潰される。
だけど……助けたいな。
「はぁ〜どうするか?敵さんの狙いはボクらしい、それならそいつらに一度見つかって町から離れた場所に逃げれば良いか」
「え!?でもそれだとタクトが危ないよ!」
「そりゃ〜分かってるけど、それくらいしか思いつかないんだよ」
「う〜ん……でもでも、……タクトが死んじゃうよ〜」
ノルンがうるうるした目を俺に向ける。
いつの間にそんな表情が出来るようになったノルン、可愛いじゃないか!
俺もこんなことを考えるんだからだいぶ余裕みたいだな。この後のことを考えるとこのくらいのことでビビるなってことだな!良し!いっちょやったるか!
「先生、今回は手伝ってくださいよ!大事な弟子が死なないように」
「何を言ってるんじゃ、ジャックとの戦いは別にいつものように傍観しておったわけではないのじゃ、我では助けにならなかった。タクト強くなったな!」
「え!?ちょっ、え!?……そう言う言葉は今言うところじゃないでしょ、ちょっとうるっとしたじゃないですか!」
「ふん!煩いのじゃ!せっかく褒めてやったのじゃから、喜んでおれば良い、ただし勘違いはするではないぞ、あくまでもタクトの強さを褒めただけで、地の精霊魔法はまだまだじゃ、これまで以上にビシバシ鍛えてやるのじゃ!」
「え〜、それは……イヤっす!」
なんとなく話がズレたけど、今回は先生も手伝ってくれることを了承してくれた。ニキに関しては普通に手伝ってくれる。
「ノルンあのさ〜……」
「もちろん私も行くわよ!」
「いや、しかしだな〜」
「危ないことは分かってる。だけど一緒にいようって言ってくれたでしょ。それなら危ないところだってついて行く!」
前とは違う、ノルンはただ好奇心や探究心で言っている訳では無い。多分俺のことを信じて言ってくれているんだ。はぁ〜そんな顔で言われると断れないよ。
「分かったよ!それじゃ〜ついて来てくれ!町のみんなを助けて、それで俺達も生きて帰ろう」
俺達は生きて帰ることを決意して戦場へと向う。
そしてこの時、俺達は知らなかった。
そこにはすでにある人物が居たことを………