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第112話 色欲の王アスモデウス


 一応リスクは高いがいくつか攻撃パターンは考えた。あとは相手の出方次第、九王の一人アスモデウス、俺のスキルがどの程度通じるかは分からないが、ノルンにこれ以上手は出させるつもりはない!


「タクト、一人で抱え込んじゃダメだからね!私も戦う。絶対にみんなで町に帰るのよ!分かった!」


 ノルンは俺の為に無理しているな。見てすぐに分かった。さっき見つけた剣を持っているのだが、緊張や恐怖から力が入り過ぎている。それじゃ〜上手く剣を振れない。

 ノルンを見てそう思ったが、どうやら俺もそうらしい。手が……震えていた。


 俺はそっとノルンの手を握った。

 ノルンから「エッ」と声が漏れたが気にしない。


「ノルンごめん、どうも緊張しちゃったみたいなんだ。俺の手を握ってもらえないかな?」


 ノルンは顔を赤く染めて、「仕方ないな〜」と言って嬉しそうに手を握る。


 少しはこれで落ち着くと良いけど。

 ノルンを心配しつつも自分の心も落ち着いていくのを感じ、助けたつもりで助けられてもいた。



 心が落ち着いたところで、ジャックの私室の前に着いた。この部屋の扉の向こうにジャックが待ち構えている可能性がある。俺は警戒しつつ扉を開ける。

 中には誰は居らず、見た目は思っていたより普通、いや、少し違うか、なんと言ったら良いのか、物が最低限の物しかない。机、椅子、ベット、生活感があまりない。そしてそのせいもありやや目立つのが壁に飾られた鹿の置き物、これに何らかの仕掛けがあり地下への扉が開く。

 予想通り鹿の角を触ると動くことが分かり、角を下に下げる。するとベットの下からガラガラと音がなり床が下がっていった。覗くとそのには通路があり、少し進むと階段が、俺達はその階段を降りていく。


「あっ!………うっ………」

 階段を降り始めてすぐのことだった。

 ムッとする不快な匂い。何か腐った様な強烈な腐敗臭、一瞬で吐き気をもよおす。何なんだこの匂いは、ジャックはこの下にいると言う話だが、とてもではないがこんなところに人が居られるとは思えない。


 階段を下りた先は真っ赤に赤く血に染まっていた。居たのは裸の男と、裸の女、そしてその周りにはズタズタに引き裂かれ血に染まった何人もの女の死体が転がっていた。

 

 俺には地獄にしか見えなかった。


「あぁ〜……来たな!……遅かったな!ノルン」


 男は立ち上がりその美しい顔で笑みを浮かべる。

 俺はその視線からノルンを守るために前に出る。

 


「どうも、あなたがジャック様ですか?」


「あ〜そうだよ君は何かな?男は餌でも要らないよ」

 こいつがジャックでいいのは良かったが、何なんだこいつは言っている意味が分からないぞ。


「餌の意味は分からないが、ノルンは渡さない。俺はあんたをぶっ飛ばしに来た」

 

「ふ〜ん……僕さ〜男に興味ないから、帰って良いよ!さ〜ノルンちゃん遊ぼう。僕がいっぱい可愛かってあげるからね!楽しみだな〜」

 

 ジャックは嬉しそうにこちらに歩いて来る。死んだ女達を踏み潰しながら。


「おいお前……止めれ!それ以上動くんじゃねぇー」

 俺はあまりにも非人道的な行為に怒る。しかしジャックはお構いなしに歩みを止めない。


「ふざけやがって!燃え尽きろ!」

 俺はバーナーをジャックに向けて放つ。


 ジャックの周辺四角く火に覆われ見えなくなった。


 しかし……


「ふん、僕にはこんなものは効かないよ!」

 ジャックは何事もないように空間から出てくる。

 そしてその身体は綺麗なまま、火傷を負っている様子はない。何が起こったのか分からないが、今は攻撃を続けるしかない。


「ハンマークラッシュ!」

 ゴン!っと音を出しジャックの側面から

ぶん殴った!

 ジャックは吹き飛び壁に衝突、しかしまたもやジャックは何事もなかったように立ち上がりこちらに歩いて来る。


「君は随分と無礼なことをする。さっきも言ったが男には興味がない。しかし邪魔をするなら相手をしてするよ」


 こいつ、どんなスキルを持っているんだ!?俺の攻撃がまったく効いていないのか?


「ノルン、僕達には彼が邪魔みたい。彼には消えてもらおう」

 俺は道具による攻撃が効かなかったことに動揺し、反応に遅れたことと、予想外の攻撃にまったく反応が出来なかった。


 グサッ……左後方の腹部に衝撃が来たと思うとまるで焼けるような痛みがはしる。


「あ…ぁぁぁ!」

 ゆっくりと後ろを振り向くと、そこには顔を赤くしてにこやかに剣を俺に刺しているノルンが居た。


「なんで!?………ノル…ン……」

 俺は力無く倒れ、地面に膝を突くが腹部を押さえなんとか踏み止まる。


 ノルンはそのままジャックの下へ走って行った。


「やっと来てくれたかいノルン、良くやったね!エラいよ」

 ノルンはジャックに抱きつき、頭を撫でられご満悦だ。………おかしい!明らかに何かが起きている。

 

 腹部から血が流れ重傷、このまま血を流せば命に関わる。そんな中、冷静な自分と噴火する直前のような熱い自分を交錯させ、ジャックとノルンを見ていた。


「う〜ん……良いね!その顔、前見た時から思っていたんだ。その強気な表情を崩し僕の虜にする。そして苦痛に堪えながら、それでも僕にすがりつき頭を下げる。そして僕が飽きるまで、グチャグチャになるまで遊ぶんだ!あーー楽しみだな!」


「テメェー、そんなことさせると思うのか!」

 俺は怒鳴るがジャックはまるで何も聞こえないように行動する。


「そうだ!もうノルンが居るから、君達はもう良いよ。すぐ死んで!」


 賑やかに爽やかな笑顔を裸の女達に向けた。


 彼女達は嬉しそうに近くにあった刃物を

 首や胸に当てそのまま突き刺した。

 女達は血飛沫を飛ばし一人…また一人と倒れていく。そしてその姿を光悦した顔で見続けていた。……その苦しむ姿を……


「お…ま…え〜いったい……」

 俺はそのあまりの非人道的な行為、何も言うことが出来ない。


「あ〜そうだ!僕は男には興味がないが、今とても気分がいい。すでに知っているかもしれないが教えてやろう。僕はジャック、そして又の名をアスモデウス、ゴエティア九王の一人、色欲を司る悪魔なり、全ての女は僕の物さ」


 俺はアスモデウスの笑顔に恐怖した。


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