第109話 シャックス侯爵
「コンコン……失礼しま〜す」
ドアをノックして部屋に入るとそこには目つきが鋭く赤と白のストライプと変わったスーツを着た男が中央の椅子に座り両隣にガタイの良い護衛の男達が立っていた。
「なんだね!随分と騒がしかったが君達かね?私はうるさいのは好まないのだ。静かにしてくれたまえ!」
こいつには一度会ったことがあるが、なんとも甲高い声が耳障りな男、聞いていてこっちの方が静かにしてくれと言いたくなる。ま〜今はそんなことはどうでも良いか、それにしても随分と余裕なことだ、こっちは無断で屋敷に侵入した賊みたいなものなのに……そう見せてないだけか?それとも俺達なんてなんてことのないガキとでも思っているのか?どちらでも良いか、俺に聞きたいことがあるんだ。それ次第でどうするか判断させてもらおう。
「どうも、覚えていないと思いますがセドリック家のパーティーでお会いしたとタクトと申します。今日お邪魔させてもらった理由はあなたに聞きたいことが御座いまして、どうか少しお時間を頂けますか?」
「フン!覚えておる。バロンのところの子供であろう。そして後ろにいるのはノルン嬢、ヴァプラが連れてきたようには見えないが、ヴァプラはどうした?」
へー俺のことを覚えているとは、記憶力が良いことで、今の話の内容からヴァプラに指示をだしたのはこいつで間違いないな。
「あのカマキリ野郎は俺が殺した。あんたがノルンを攫うように指示したんだな。こっちは町の住民にかなりの被害が出た。どう言うつもりだ!」
シャックス侯爵は至って冷静、と言うか興味がなさそうな顔をしていた。
「ヴァプラはなにをしているのだ。役立たずが!それでお前は何をしに来たのだ?まさか復讐にでも来たのか?それとも命乞いか?それならばノルン嬢を置いて行くが良い。私はあの町にもバロンにも興味はない。ノルン嬢さえいればジャックは満足するはずだからな。良かったな少年」
「勘違いが酷いなシャックス侯爵、ボクはあなたと話に来たが、もうあまり意味はないかもな、やっぱりあんたもクソ野郎だ!ノルンは絶対に渡さない!」
「はぁ〜だから庶民は困る。勘違い?何がだね!お前達は庶民であり下民なのだよ!貴族である我ら上流階級の者に逆らうな。バロンもそうだ。男爵が侯爵である私に逆らわずにすぐに娘を渡せば町に被害は出なかったであろう。バカはいつも私の手を煩わせる」
「あんたね〜ふざけるんしゃないわよ!あなたのせいで、町のみんなやお父様が…………あんたは絶対に許さない!」
ノルンから怒気が放たれ、いつ突っ込んで行ってもおかしくない状態だ。このままだとノルンが危ない。さっさとコイツラを俺が殺るか!
ノルンの怒気に当てられ二人の護衛の大男達が動きだす。
「お前達、少年の方は良いが、ノルン嬢には怪我をさせるなよ。ジャックが癇癪されてはかなわんからな」
シャックス侯爵はすでに興味を失っており、書類を処理し始めている。余裕だね〜こいつ、俺達が子供だからって舐めすぎでしょ。
護衛の大男は一人はノルンをもう一人は俺を相手にしようとしている。でも両方とも俺が殺るけどな!
俺もゴエティアの連中を多く見てきてなんとなく気配から悪魔憑きか分かるようになったみたいだ。この二人は……悪魔憑きだ!容赦は要らないな。
「燃え尽きろ!『バーナー』」
「ガアァァァア」二人の男が叫ぶ!
二人が居る空間を局所的な指定し空間延焼を行った。悪魔の力で強化された身体であったも関係ない。焼き殺す!
「うげぇ……やるならやるって先に言ってよね!モロに見ちゃったじゃない」
ノルンは焼け爛れる護衛を見て気分が悪くなったみたいです。ちなみに俺もです。うぇ!
「あ、いたぁ!ごめん、そんなに怒んないでよ〜」
ノルンに叩かれた。
今後はこの道具の使い所を良く考えて使おう。
「なるほど、ヴァプラが殺られたのも頷ける。ただの子供ではないようだな、ですが油断はいけません。ここからは大人の戦いと言うものをお見せしましょう」
「コン、コンコン」杖を地面に叩く音がした。
「な!?」
「タクト身体が動かないよ!なんで!」
ノルンが言う通りだ!身体が金縛りにあったみたいに動かないぞ!
「どんなに厄介で強い者でも動きを封じれば、なんてこともありません。暴力は嫌いです。もっとスマートに殺らなければ」
余裕しゃくしゃくと言った様子で、警戒をまったくせずに、俺に近づき頬にポンポンと杖の先を当ててくる。自分が優位に立っていると思い調子に乗っている。やらしいヤツだ!
「安心して下さい。ノルン嬢には手は出しません。でもあなたには死んで頂きます」
シャックス侯爵はスーツの懐からナイフを出し、そのナイフを俺の首元に当てる。
「タクト!?いやぁ!やめてー!」
ノルンは俺が殺されそうになり叫ぶ。
「あの〜一つ良いですか?」
俺は聞きたいことがあったので確認する。
「ん!君は頭が良くないのかね。君は今から殺されるのだよ。なのになんでそんなに余裕な顔で質問などしようとしているのかね」
シャックス侯爵は眉間にシワを寄せて不思議なものを見るような目を向ける。
「いや〜気になっちゃって、今のは悪魔の力ですか?音を使って嵌めたスキルですよね?」
「まったくなんてガキだ!死ぬのが怖くないのか!ま〜いい、冥土の土産に教えてやろう。私のスキルはお前の言う通り音を使い嵌める。『狂いの傀儡師』それが私のスキルだよ!私が魔力を込めた音を聞くと相手の精神を狂わせる。今のように軽く音を聞かせただけでは、動きを止める程度しか出来ないが、時間をかければ私の意のままに操ることが出来る。しかし君には用はありません。さようなら少年」
シャックス侯爵は俺の首元に当てていたナイフを動かした。