第104話 ノルン……デレる!
◆ノルンの視点
あれ?気を失って頭が混乱しているのかな、目の前に私が一番会いたかった人がいる。私のために涙を流してくれているの?大丈夫だよ!私は大丈夫だから泣かないでタクト。
私は彼の顔に触れ涙を拭き取ろうとしたけど腕が動かない。……あ!私の腕ズタズタだよ。こんなんじゃタクトに嫌われちゃう……嫌だな……
「おーおー、お前誰だ?……まーいっか、それより反抗出来ないように腕と足に攻撃を集中したけどやり過ぎたな。ボロボロじゃねぇーか、これは治してからジャック様に引き渡さないと罰を受けさせられそうだ。まったくどうせボロボロになるのに治すとか意味わからないな」
男の言葉に今まで見たことがないくらい怒っているタクトの顔を見た。
タクト私のために怒ってくれているの?そう思うとすごく嬉しくなった。でも私はタクトに違う言葉をかける。
弱々しい言葉で一言だけ「逃げて」そう言うとタクトは表情を変えニコリと笑い「大丈夫だよあんな奴に負けないから」そう言って私の傍から離れて行く。
ダメなのに、あいつはすごく危険なの!
私は止めることが出来ず見ることしか出来ない。
「ノルン安心せい!我の弟子はあんな奴には負けん!それよりも今は自分の心配をするのじゃ」
私の傍にはいつの間にかロームさんとニキが居た。それにいつの間にか地面から沢山の土で出来た手が私の腕と足に何かを貼り付けている。分からないけど痛みが少し引いた気がした。
◆ヴァプラの視点
面倒事とは続くものだ、小娘が逃げてやっと見つけたと思ったら、思いの外強く抵抗されやり過ぎてしまった。小娘の治療をしなければならない。それに誰だか知らないガキが混ざって来やがった!お前に用はないんだよ!死にたくなかったらどこかに行け!そう言ってやろうかと思ったが、そいつの顔を見て言うのを止めた。そいつは間違いなく小娘の知り合いだ。怒りの形相でこちらに歩いて来る。殺るしかない!
こいつには遠慮は要らないな。
羽に魔力を滾らせガキに向かって羽ばたいた。
「それさっき見たから……無駄!」
少年の言う通り俺の攻撃は何か壁のような物に防がれた。一体何をしやがった!
分からないが、それなら直接切り裂くまでよ!
俺は鎌を振り上げ羽を使い飛んで突っ込む。
「死ねぇーー……うげぇ!」
ガキを切り裂く手前に見えない壁が!?思いっきり衝突してしまった。
「よぉ!お前は楽に死なせて殺らないからな!」
見えない壁越しにガキがいきり立ってやがる。舐めやがって!
腕を振り上げた瞬間、腕が切り落とされた。
「うがぁーなんてことしやがる!」
腕を押さえ痛みに耐え下がる。
「逃さねぇーよ!」
肩のあたりに何かを刺されたが、大したダメージではない。一度距離を取って……な!?動けない。
「逃さないと言っただろ」
「ウガガカガガガガガガ………」
ガキとは思えない凄まじい速さの拳で連打される。
「キサマーー!」
俺の怒りは頂点に達した!
羽を使い暴風を起こす。全て吹き飛べーー!
「お前は所詮そんなもんだ!ボクには効かないよ」
ガキは平然と俺の目の前に立ち、何かを取り出すとそれを横に振る。
「ガハァ!?」
側面からものすごい衝撃を受け弾かれた。
ゴロゴロと転がり身体のそこらじゅうが痛い。
「もうそろそろ終わりにするな。お前をどれだけ殴ろうとも、怒りが収まりそうにない。
「ぐわああああーーアツイーー」
身体が身体がアツイーーなぜだぁーー!
俺の意識は途切れ、そして……死んだ。
◆ノルンの視点
うそーー……タクトすごい強い。
私はタクトがカマキリ男を圧倒する姿に見惚れてしまっていた。さっきまであれだけ最悪な気分だったのに、今はタクトのカッコ良さで高揚感に浸っていた。
「あれは相当怒っておるのじゃ、タクトがあんなに一方的に攻撃をするとは、ちょっと怖いの〜」
「えへへ~私のためにタクトが怒ってくれてるのか〜」
「なにをデレデレしておるのじゃ。さっきまで落ち込んでおったくせに、これだから若いもんは…」
だって仕方ないじゃ〜ん!
タクトがカッコいいんだも〜ん!
あ!タクトがこっちに来る〜
キャ~カッコイイ!!
「ノルン遅くなってごめん」
「どこ行ってたのよ!バカ!あんたは私の傍には居ないとダメなんだからね!勝手にどこにも行かないでよ」
私は相変わらず素直になれない。
そんな私がたまに堪らなく嫌になる。
「あぁ……ノルンも俺から離れるなよ!お前は俺が守る!」
「ふぁい」
いつものタクトより超カッコイイ!私はその言葉に惚けで返事をするのでいっぱいいっぱいになっちゃった。
◆タクトの視点
ノルンの様子から怪我の具合は良さそうだな。あとは逃げるのが得策だけど、そうはいかないよな。
「よぉ!元気そうだな、良かったぜ」
「はい、イグニスさんも元気そうで、少し抑えてほしいくらいですよ!その闘気を!」
「あ〜悪い悪い、そんなに強い敵意を向けられたら自然とな!ま〜許せ」
俺はイグニスさんと一定の距離を取り向かい合う。
「イグニスさん何か言いたいことはありますか!」
「いや、言い訳はしない」
「そうか!しないのか……残念…」
その一言と同時にイグニスは大きく吹き飛んだ。