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第103話 ノルン脱走


◆ノルンの視点


 今のうちに逃げないと、イグニスが戻って来たら絶対に逃げられない。馬車に乗っている間、こちらを見ていないのに一切隙を見せなかった。私ではイグニスから隙を作ることも出来ない。だからこれが最後のチャンス!


「まずはこの拘束を解かないとね」

 私の腕と足にはイグニスが作った炎の鎖で縛られている。不思議だけど熱くはない。でも力を入れて解こうとすると一瞬で温度が上がり火傷をする。まずはこの鎖を取らないと逃げられない。


 私は目を瞑り魔力を集中し、そしてゆっくりと目を開くと瞳が赤く光る。


『天獄の魔眼』

 私の見ている炎を意のまま操るスキル。

 腕と足を拘束する炎を解き消した。


「良し!出来た。はぁー……このスキルは魔力の消費が大きいから、そう何度も出来ない。本当はイグニス相手ならすごく有利なスキルなんだけど、今の私じゃ無理だよね。


 無理はダメ、私の力じゃ倒すんじゃなくて逃げることに集中しないと。今イグニスとここの兵士を従えているカマキリ顔の男は居ない。だけど馬車の周りには兵士が囲っている状態。

 馬車の周りの兵士を何とかしないといけない。やるなら騒がれる前に倒すか、見つからずに逃げるかどちらかにしないと。

 イグニスがいつ戻るか分からない中、時間をあまりかけずに作戦を立てる。


『天獄の魔眼』

 

 私はまず火球を作り天獄の魔眼でそれを見えないレベルまで細かく維持、それを兵士達に放った。

 今の私ではかなり難しい制御を必要とするから、精々五メートル程度しか維持出来ない。


「うがぁ」

 周りからほんの少しうめき声が聞こえたが、このくらいなら大丈夫、

 私は周りの様子を確認しながら外に出ると兵士達は倒れて死んでいた。


 私がやったのは微小サイズに変えた炎を兵士達の口の中に入れただけ、炎は兵士達の喉を焼き窒息死させた。地獄の様な苦しみだっただろうけど、そんなことは知らない!殺しに来たなら殺されても文句は言わせない。


 私は周辺を確認しながら走って逃げる。

 敵が追ってくる気配はない。だけど逃げたことはすぐに気づかれる。追手が来るのは時間の問題。


「私……どうなるのかな……殺されるのかな……やだな〜………」

 私の目から涙が流れていた。

 あ〜さっきまで我慢できたのに……


 濃密な死の気配を感じ、私の中で今までの思い出が溢れかえる。そして死を拒む心から恐怖で涙を流していた。


「私……何泣いてるのよ!今は泣いている暇なんてないんだから!絶対逃げ切ってみんなとあの平穏な生活を取り戻すんだから!」


 私は足に魔力を集中させ加速し走って逃げる。


 時間からそろそろ私が逃げたことには気がついているわね。気を引き締めないと、そう思った時だった。左後方から気配を感じ咄嗟に右に飛ぶ。


「いたぁ!」…… 左足が何かに切られた。


 私は上手く着地出来ず転がり、すぐに体勢を立て直すために痛む足を動かし無理矢理立ち上がった。


「おーおー!よく避けたな!気が付かれているとは思わなかったぜ。でも助かったのは俺かもしれないな、お前を殺していたら、俺が罰を受けるところだった」


 現れたのはカマキリ顔の男、しかも顔だけじゃなくて腕までカマキリみたいに鋭い鎌が付いている。

 

「どうやって……なんでもうあなたがここに居るのよ!」

 私は怖かったけど、そいつに弱いところを見せたくなくって威圧しながら喋る。


「ん?あ〜そうだな、お前上手くやったな!まさか逃げられるとは思ってなかったけど、逃げる時には今度からは上も気にすることだな」


 男の背中に羽が見えた。

 そうか!上空から私を見つけたのね。完全に想定外、空を飛べるヤツがいるなんて……


「おーおー、そう構えるな。抵抗しないで戻るなら何もしない。お前を傷ものにすると後が面倒だからな。さ〜戻ろう」


 戻ったところで私の生きる道はない。だから私は最後まで足掻くと決めている。


 手から炎を出しそれを『天獄の魔眼』で剣の形に変化させ、赤い鋭い剣を生成する。


「おーおー抵抗するか、面倒くさいことになったな。ま〜精々頑張れ、ジャック様のところに行けばじわじわといたぶられて女としての尊厳を失い最後には悪魔の餌だ!俺でも身震いする。だから必死に逃げろよ。俺は追いかけるのが好きなんでな」


「ふざけるな!この剣が見えないのか、私はお前を倒してそれから行く!」


 剣を振り上げ私は男に斬り込む。

 男は鎌の様に変化した腕で受け止めたけど、私の剣はそんなもので防げるもんかー


 私の剣は鎌を焼き斬り、そのまま胴体へと斬り込んだ!


「小娘がうぜえんだよ!」

 男は羽を使い後方に移動、私の剣は空を斬る。


 距離を取られたか、でも相手は手負い、攻めあるのみ!


「おーおー調子に乗ってるな」

 男は首を九十度曲げ、口を横に広げニヤリと笑う。それと同時に男の魔力が上がり身体全体が変異していった。


「何よこれ!?バケモノ!」


「おーおー、酷い言われようだ、この崇高な姿が理解出来ないとは残念、俺はゴエティア72柱の一人ヴァプラ、悪魔の力を使う者なり、さ〜小娘お仕置きの時間だ!」

 

 ヴァプラは一回り大きくなった羽を私に向けて羽ばたかせる。羽の力で起きた突風には細かな斬撃が乗せられ私の全身を切り刻んだ。


 その一撃は致命傷には至らなかったが、身体を動かすには傷が深過ぎた。


 力を失った身体はバタリと倒れ動くことが出来なくなっていた。


 あー……私はもうダメなんだと思い、私の目からまた涙が溢れて止まらなくなった。

 

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