第102話 それぞれの現状
その頃、町では……
「うっ……ここは?」
「おぉ!?バロン……目が覚めたか!」
頭を押さえふらつきながらも上半身をあげるバロン、それを神父さまが手を背中に回し支える。
「あぁ…悪い大丈夫だ。身体は……問題ない。むしろ調子が良いくらいだ。どうやらお前に助けられたな」
「いや、俺じゃないさ、お礼を言うならタクトくんに言ってくれ」
「そうか彼に助けられたのか、それではそうしよう、だけどその前に、随分と心配をかけたみたいだなスカーレット、悪かったな」
バロンの傍には佇んでいたのはスカーレット、目を赤くして、涙を堪えているように見える。
「お、起きるのが遅いのよ!事務仕事ばかりやって鈍ってたんじゃないの!目が覚めたならさっさと仕事しなさい!」
スカーレットはすぐに後ろを向き、そのままバロンから離れて行った。バロン達は知らないがこの後隠れてひっそりとスカーレットは泣いていた。
「ハハッ……そうだな長としての仕事を果たそう。今の状況を教えてくれるか?」
「あ〜分かってる。頼りにしてるぜ!もうひと踏ん張りだ!」
二人は立ち上がり村人の下へと向かう。
そしてその頃、アポロンも動いていた。
動ける者を集め、タクトに渡された絆創膏を使い治療にあたる。最初は半信半疑だったが、タクトに言われた通り傷口に貼り付けて暫くして剥がすと傷口がない。治ったと言うより元々ここを怪我していたのかと疑ってしまう程だ。しかし、それは喜ばしい事実、アポロンは急ぎ行動に移す。
そして今はジェーさんの腕を治療している。流石に斬り落とされた腕、これがくっつくなんて想像すら難しい出来事、しかし奇跡は起きる。ジェーさんの手が動き、そして腕を上げた。ジェーさんの一体何が起きたのか分かっていなさそうだ。何度も手を開いたり閉じたりとして確認をしている。
「アポロンちゃん……これ…もしかして治ったの?」
「ジェーさん俺も信じられないよ!でもさ、腕……動いているぜ!治ってるよ!」
「うぉーー私のうで〜……ありがとうアポロンちゃんありがとう〜うぉーー」
「うげ!?バカ来んな!俺じゃねぇ〜って言っただろうが!」
アポロンはジェーに泣きながら抱きつかれアポロンは引き剥がそうとジェーの顔に蹴りを入れていた。
村人の傷は癒え、ほんの少しだがみんなに希望の光が見えた時だった。そこにある夫婦が町に戻ったことで、その場所はまた恐怖の空気に包まれたのだった。
……………▽
◆イグニスの視点
俺はシャックス侯爵が統治するグラムと言う街へと向かう馬車に乗っていた。窓からの景色は晴れ晴れとして良い景色が見えるが俺の心は淀んでいた。目の前には鋭く睨む少女が一人、いつ襲いかかってもおかしくない怒りの目だ。当然だな自分が住んでいる町を焼き、父親を血だるまにした男が目の前に居るんだから、俺はそんな少女の目を見ていることが出来ず窓の外を見ていた。
「おーおー嬢ちゃんは随分と元気そうだな!これならジャック様もお喜びになる。どんなお褒めの言葉が頂けるか楽しみだ」
馬車の中に長身で細身、そして動きや見た目がカマキリの様な変わった男が入って来た。
「何のようだ!こいつは俺が見張ると言ったはずだが、お前も含めて誰も入ってくるな!」
「おーおー怖いね〜勇者に討伐されちまうのか〜俺は?あー良かったぜ!お前が仲間でヒッヒヒ」
「はぁっ!なんとでも言え、だかここには入って来るな!お前の命など消しても、あの方達は気にしないと俺は思っているぜ」
俺は剣の柄に手を置く。
「おーおー止めとけ、確かにお前の言う通りあの方達は俺が死んだところでなんとも思わないだろうが、それでも反抗したとみなされる。あの方達の心象を悪くするのはお前にも都合が
悪かろう」
「ちっ、さっさと出ていけ」
「おー分かった分かった。でもその前に俺も用があって来たんだ、イグニスあの方がお呼びだついて来い。
「はぁ!それなら早く言え!」
イグニスは立ち上がり馬車を降りる。
「ノルン……悪いな。だが逃げるな!」
馬車を離れる前にノルンに向けて釘を刺していった。
ノルンはその後ろ姿を見送り静かに行動に移す。
……………▽
馬車を出た先に黒い渦が広がり、そのに一人の少年が現れた。
「やぁ!久しぶりだねイグニス、元気してた!」
「あぁパイモン、俺に何か用か?」
「いやね!町を襲ってくれてありがとうね!指示通り燃やしてくれたかな?」
「あぁ燃やして来た。だがなぜあの町を燃やす必要があった。お前に何か得でもあるのか!」
「も〜う、そんなに怒んないでよ!ま〜友達とはもう会えないけど、奥さんのことは任せてよボクがしっかりと生き返してあげるからさ!」
「…………うっせぇ〜、それで何でだ!」
「ん?……あ〜町の件ね!あそこに気になる子が居るんだけど、この間ね〜取り逃がしちゃって、嫌がらせに帰る場所を無くしてやろうかな〜と思って、ちょうどそこにジャックくんがちょっかいだそうとしていたみたいだから、協力を御願いしたんだ!君がいないとバロンはキツイだろうから。本当に助かっちゃった!ありがとうね!」
「あぁ、そう言うことか……くだらねぇ……」
「う〜ん……そうかな!ボクはイグニスのその顔が見れて大満足だよ!」
イグニスの顔は怒りと悲しみで恐ろしい形相になっていた。普通の人が見たら腰を抜かす程の威圧を出しているにも関わらず、パイモンはその姿を楽しそうに見ている。
「ふふふっ、いや〜楽しいな〜でもこれからもっと楽しいことがあるかもよ!
多分だけどあの子なら攫われた子を助けに来るはずさ!だからさ〜イグニス……その子も殺してよ。出来るだけ苦しめてね!いいかな〜」
笑顔パイモンにイグニスは黙って応える。
「あ〜楽しみ!ジャックくんにも後でお礼を言っておかないと、それじゃ〜またね!勇者イグニス」
黒い渦が消えパイモンは居なくなった後、イグニスは「俺が勇者なわけないだろ」と呟き、ノルンが居る馬車へと戻る。
「な!?……あいつは……やるな!ノルンお前ならやると思ってたよ!」
炎の鎖で拘束していたノルンは居なくなっていた。かなり強固な魔法にも関わらず破られたことに驚きそして呆れ、最後に感心していた。




