第1話 異世界は突然に……
突然ですいません。神様っていないんですか?もしいるならもう少しは考えて欲しい。なんで目が覚めたらロープでぐるぐる巻に縛られてるのよ?しかも頭とか腕とか足とかそこら中痛いんですけど、俺が何か悪いことした!などと心の中で文句を言いつつ俺に一体何があったんだ?と考えていると、
ん!?横から視線を感じる…………
視線の先を見ると赤髪の女の子がこれでもか!と言うほど睨みつけられていた。なんで?
……………▽
俺の名前は鈴木拓哉、年齢は今年三十歳になる。勤めているのは小さな電気工事業社、電柱に登り配線を接続したり、図面を引いたりと頭も身体も使うなかなかハードなお仕事だ。特に俺の勤めていた会社は真っ黒なプラック会社、夜中まで働きほぼ休日はなし。ただ残業代はしっかり払ってくれるから金だけは貯まるんだよ。使う暇がないから意味ないけど。
俺は飯食って風呂入って寝るしかないつまらない人生を送っていた。あ〜また子供に戻ってあの平穏な生活をもう送りたいな〜。
……………▽
今日は電柱に設置されている機器に異常が発生したと報告を受け確認に来た。最初は高くて怖かった電柱作業も今では難なくこなす。人間は環境に適応出来る生き物と再認識した。
「特にケーブルが切れている様子もないし継電器が作動もしていない。特に異常なしか……おかしいな連絡ミスか?」
俺は報告ミスに苛つき、気分転換のつもりで空を見上げる。僅かに白い光が見えた気がした。何だろうと思いそのまま見ていると、それは高速で接近しなんと電柱に衝突、俺は突然の事に体勢を崩し落下、強く地面に叩きつけられる。
いってぇー………声がまともに出ない。あの高さから落ちたんだ重傷は間違いないか。
はぁ〜あ、俺ってやっぱりツイてないんだな〜これなら落ちた時に意識が飛んだほうが良かった。
真上には切れかかったケーブルがバチバチと音をたてている。無情にもケーブルは倒れかかった電柱に引っ張られ俺の上に落ちてきた。
「アババボエバギバエー」
そして俺は死んだ………
…………………▽
痛いから痛いはないだろ〜カミサマ〜
おぼろげながら記憶が戻って来る。どうやら俺死んで転生したようだ。ただしただの村人Aに、もしかしたらBかCなのかも知れない。ま〜それは置いておこう。まずは色々と現状把握からだな。それでは早速なのだが、
「君だれ?」
「なにボケたこと言ってるのよタクトのアホ!」
「うげ〜」
隣にいる赤髪の女の子からハイキックを顔面に受けた。
俺と違って腕を縛られているだけだからって、椅子に座った状態からハイキックとかします?この娘、かなりのじゃじゃ馬娘だな〜
「冗談はいい加減にしなさいよね。このバカタクト!
無茶し過ぎなのよ!」
赤毛の女の子は目を真っ赤にして涙を溜めて堪えている。
「ごめんよ、ノルン頭がボーッとしてさ」
「バカ!そんなの当たり前でしょ、あんなに殴られたんだから、……ま〜あんたは元からボーッとしてるけどね!」
赤髪の女の子はフンっと横を向いてプンプン起こっている。ツンツン系か?このじゃじゃ馬が!いつかデレに変えてやろうか〜
しかし、今のでまた思い出した。このじゃじゃ馬娘は、俺と父さんが勤めている屋敷のお嬢様であり幼馴染、名前はノルン、年齢は俺と同じ14歳、見た目は赤髪を三つ編みにして顔はかなりの美形、少しツリ目が気になるが将来はかなり美人になるだろう。服装は日頃から動きやすくてラフな格好がいいらしくズボンを履いている。お嬢様なのに昔から屋敷を飛び出し草原を走り回る様な女の子だった。その度に俺は引っ張り出され遊びに連れ出された。ノルンとの遊びは結構大変、ひどい目にあったのは一度や二度ではない。今回の事も含めて………
「もう……無茶しないでよねタクト、もしかしたらタクトもあんな風にされていたかもしれないのよ」
確かにノルンの言う通り、一歩間違えれば俺もああなっていたかも知れない。
目の前には恐怖で顔が歪ませ物のように地面に転がされた人が居た。
ほんの少し前までは生きていたのに………
俺はいつものようにノルンに引っ張られ、村外れにある森で遊んでいた。森は危険なので入るなと日頃から村の人から言われているけど、魔物に遭うことは稀でそれ程強い奴はいない。だから昔からよく遊んでいた。でも、その日は少し違った。偶然にもゴブリンに遭遇してしまったのだ。俺は逃げようとノルンに言ったが言う事を聞いてくれない。ノルンは冒険者になる事が夢で日頃から剣の鍛練をしている。今日も剣を携えていた。だから自分なら倒せると思ったノルンはゴブリン目掛けて突っ込んでいく。そして見事に倒して見せた。高揚感が高まるノルン、しかしこれが後でノルンを調子に乗せるきっかけになってしまった。
ゴブリンを倒してノルンは意気揚々と歩いていると
盗賊に襲われている行商人を見つける。ノルンは正義感が強く放っておけなかった事と盗賊が二人しかいなかったことでなんとかなると思ってしまった。声をかける暇もなく突っ込んでいた。
実際は近くに十人以上の盗賊が居る事も知らずに、
俺達はすぐに囲まれ捕まってしまった。
行商人の男は前から盗賊達と取り引きを行っていた
ようで、いくつか質問をされ拷問を受け無理矢理答え
させられていた。途中でやり過ぎたのか下っ端が殺してしまい怒られていた。
怒られてイラついた盗賊の下っ端は俺達を見てニヤリと笑う。
俺達にゆっくりと近づき、ノルンを品定めするように見て舌なめずり、突然股下に手を置き顔を近づける。
「ヒッ」ノルンから短い悲鳴が聞こえる。
「えへへ、嬢ちゃんかわいいな〜怖いか〜」
「こ、恐いお前なんか恐いわけ無いだろ!」
震えながら必死に抗うノルン、しかしその反応はそいつを喜ばせるだけだった。
「へへへっ、イイね〜活きが良くて犯しがいがある」
周りの盗賊が煽り始め盗賊の下っ端がノルンの服に
手をかけた時、
「ヤメローこのクソ野郎、ノルンに手を出したら殺すぞ!」
俺は怒りのあまり今まで一度も使ったことがない言葉をいつの間にか発していた。
盗賊の下っ端は「はぁ〜」と怒ったがすぐにニヤつく。
「なんだ〜お前こいつの事好きなのか、えへへ、面白くなって来たぜ!いいか〜お前はこいつが犯される姿
でも見て楽しめよ!えへへ、さ〜嬢ちゃん楽しもうな〜」
再びノルンに手をかけようする。
「バカヤロー何度も言わせるんじゃねぇ〜よ」
ゴンっと盗賊の下っ端が殴られる。
「いてぇーよお頭〜」
頭を押さえてうずくまる盗賊の下っ端。
「また商品を駄目にするつもりか、いいかそいつは
高値で売れる。かなりの美形だからな!奴隷商に売るかそれともどこぞの貴族に売ったほうが儲かるか、ヘヘ、考えるだけでよだれが出そうだぜ、だから絶対に指一歩も触れるんじゃね〜ぞ!分かったな!」
「そんな〜殺生な〜お頭〜」
「うるせぇ〜どうしてもって言うなら隣の坊主にでもしな」
周りの盗賊達はわ〜っと笑いだす。
盗賊の下っ端はスネた顔をして俺に近づき、ムカついた気分をぶつけるようにひたすら俺に暴行を加えた。
…………▽
「アタタタタ〜」
こっちはさっき死ぬほど痛い目にあったばっかなんだぞ!(実際に死んでいます)人生始まっていきなり死ぬ寸前って……ふざけんな!
俺ってやっぱりツイてないのかな〜生まれ変わった
んだからそこんとこ変わっても良いと思うんだけど。
「タクト……大丈夫?」
心配そうな目で見るノルン
「あ、うん、なんとか、これもノルンの修行のおかげだね!まさかこんなところで役に立つとは、アハハ」
ノルンはいつか冒険者になった時、俺にもついて来いと無理矢理修行をつけていた。おかけで体力はついたと思う。
「もう、バカなんだから」
ノルンの顔に少しだけ笑みが見えた。
それにしてもどうしようかな、このままだと俺はいたぶられて殺されるか奴隷商に売られる。ノルンももちろん………いや、考えたくもない絶対にそんな事にさせるもんか!
俺はしばらく考えるがどうにもならない。なんで転生者なのに神様は何のスキルもくれないの?普通異世界転生はメッチャスゴイチートスキルくれるんじゃないの?俺ってやっぱりツイてないんだ〜チクショー。
「何をブツブツ言っておる。いつまでも帰ってこんと
思ったらこんなところで油を売っておったのか?」
そこには小さな妖精さんが居た。
「……………あんた誰?」
「戯けたことを言うのはこの口かーー」
「ぶへぇー」妖精さんから飛び蹴りを受ける。
「目が覚めたか!このバカ弟子が!」
「ひゃい、すびばせんローム先生」
今の衝撃で思い出した。この妖精は家に住みついて
いる放浪癖がある妖精さん。世界中を回って旅をしているかなり変わった妖精なのだが、何故か今は俺の周りをついてまわっている。
「どうしたのよ!さっきまで黙ってたのに突然
騒ぎ出して」
ノルンが不審な目で見ている。そう言えば妖精は日頃は普通の人には見えないようにしているって言ってたのを思い出す。つまりノルンにはローム先生は見えていない。
「ごめん!ノルンちょっと待ってて」
ノルンは不満そうな顔をしていたが聞いてくれた。
俺は改めて考える。ローム先生がいればこのロープ
くらいならなんとかなる!あとは見つからずに逃げ出せれば……
「何をしている。さっさと逃げるぞ!」
「でも先生、このまま行ったら捕まちゃうんですけど」
「仕方ない。少し様子を見て逃げ道を探してくる」
ローム先生はヒューンと飛んで行った。
先生が戻るまでに他に俺に出来る事がないか考える。俺に何か力があれば………でも俺は知っていた。俺には何の力も無いことを、十歳になると必ず儀式を受け自分のステータスを知る。俺には残念ながら特別な力はなかった。村人Aに見合う普通のステータス、だが今だから思う。俺は転生者なんだから特別なスキル
くらいくれたって良いじゃないか!
その時、突然目の前に仕事で使っていたツールボックスが落ちてきた。
「はぁ??? なんでこんなところに……」
頭の中で疑問府が出るばかりだが、なんか懐かしい
気分になった。
なんとか足で挟んで引き寄せるとステータス画面が
突然飛び出てびっくりする。またしても声を出しノルンに睨まれるが何も言わない。どうやらノルンには見えていないみたい。
ステータス画面には『ツールボックス』と
書かれていた。
「お〜い戻ったぞ」ローム先生が戻って来た。
「ローム先生、早く早くロープを解いて!」
俺はローム先生をせかせる。
「なんじゃ突然!……ま〜良いか!今がチャンスじゃ見張りの者は寝ている」
ローム先生にロープを解いて貰うと俺はすぐに
ツールボックスを開ける。
「え!?」……俺は驚き……愕然とする。
ボックスの中にはプラスドライバーが一本だけしか入っていなかった。これでビスでも締めろってか〜何の役に立つって言うんだよ!……ガクッ、俺は仕方なくプラスドライバーを手に持ち。ノルンと一緒に逃げ出す。幸いズボラな盗賊で助かった。どいつもこいつもグースカ寝むっている。
「ほら頑張って」
「あ〜ごめんなノルン」
逃げ出したのは良かったが、俺は怪我の痛みでまともに動くことが出来ず、ノルンに肩を借りて歩いていた。本当なら早く逃げないといけないのに……
「ノルン、先に逃げてくれないか、このままだともしかしたら盗賊が追いかけてくるかもしれない」
ノルンはムスッとした顔をして俺の頬を突っつく。
「あ!?イテテ、そこ腫れてるから触んないで〜」
「バカなこと言ってないで足を動かしなさいよ!言っておくけど、私はタクトを見捨てたりは絶対しないからそのくらいのこと分かりなさいよバカ!」
………そんだよな!ノルンはそういう奴だ。
「ありがとう、ノルン」
感謝を伝えるとノルンはプイッと横を見て黙る。
本当はかわいいやつだよノルンは………
「おい、待てよ!逃げれると思ったのか?」
くそ〜追いつかれた!盗賊のお頭と呼ばれていた男と手下が二人。
「どうやったかは知らないが、やってくれるじゃないか仲間を眠らせて逃げるとは、魔法でも使いやがったか」
盗賊達は警戒して少し離れた位置にいた。
「あと少しだったのに……」ノルンは恐怖する。
その顔を見た俺はノルンを助けたいと強く思い、ふと手に握りしめているプラスドライバーを思い出す。
すると突然、頭の中にこのプラスドライバーの使い方が流れ込んで来た!