マネージャー
車を走らせながらことねの愚痴に耳を傾けた。内容――不満、葛藤、希望。
「なんだか頭にクルっす。何度も同じシーンやらされてるんですよ。しかもっ、胸が強調されるシーンばかりっ! あの人、ちょっと嫌いになりました」
「そういうことができるから数字が取れてる」
「でも、子供向けですよ」
「表向きはな。ことねの相手役は大分格好良い男だっただろう。あれで暇な主婦が網にかかる。そしてことねの 胸で愉快な野郎どもが網にかかる」
「うぅ~……」
納得いかないのか、口を曲げる。ヒザの上に乗せたコーラのペットボトルを手に取り、喉に流し込もうとした。少しだけ飲んだのを 確認してそれを奪い取った。
「あっ」
「糖分過多だ」
奪い取ったものを飲み干した。ことねの切ない声が車内に響き渡った。空になったペットボトルを後部座席 に投げ捨てた。
「酷いですよぉ……せっかく、久しぶりの甘い飲み物だったのにぃ」
恨みがましい視線、受け流した。
「代わりに好きなところに飯を食わせに行ってやる」
「ほ、ほんと?」
「ああ、何が良い」
「えっとー……スパゲッティーとか食べたいかも」
「良い店がある。金も渡すからゆっくり食っててくれ。近くにディスカウントストアもある。買い物 でもしてくるといい。五時に迎えに行く」
ことね――鋭い視線、怒った顔。運転に集中して見てないふりをした。
「マネージャーさん、物凄く冷たくないですか……?」
「君だけのマネージャーじゃなくてね。これから行かなくちゃいけないところもある」
頭の中の予定、あとニ人ほど様子を見に行かなければならない。ことねに構っていられる時間は少ない。
「そうじゃなくてぇ~……その、恋人らしい対応とかしてほしいなぁ~、なんて」
腕時計を見るふり――実際は見てなどいない。
「まだ仕事中だ。私情を挟んだらプロ失格だ」
「そこをなんとか手心を加えてくださいっすよ……一緒に暮らさなくなってから私も寂しいんです」
「ことね……」
ブレーキを踏んだ。道路の横に停車した。振り向いた。
「うん……」
「この先、二十メートルのところにパスタ屋がある。そこから左十五メートルのところにディスカウントストアが ある。カードを渡しておく。領収書をもらってきてくれ。経費で落ちる」
「うぅううううう」
納得いかない顔だったが、素直にことねはクレジットカードを受け取って車から降りた。肩をいからせて歩いていく姿を見つめながら俺は胸ポケット の煙草を取り出した。
「寂しいなんて言えねぇよ――」
煙草に火をつけた。ことねは喉を大切にしていた。一本だけ吸ってギアチェンジした。今は感慨にふけるより も仕事を優先する。