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対峙

殺すしかない――誓いを立てた。

了司は一つだけ間違ったことを言っていた。王は二人いらないんじゃない。二人ともいらないのだ。二人とも、 不要な存在なのだ。二人とも、不必要なのだ。この世に居てはならない暗黒の絶対君主だ。


イカれていた。トチ狂っていた。だが、俺はことねを護り、俺の王を殺さなければならない。

俺は俺の王の騎士である前に――彼女の騎士なのだ。師とは後々の契約だった。最初の契約に 従わなければならない。


だが――勝てない――俺はあの男には勝てない。あの男は化け物だ。俺とは違う。レヴェルが 違いすぎる。俺を殺すという師の言葉、その通りになる。


死ぬのは怖くは無かった。今更だった。だが、了司がことねに手を出すかもしれないという恐怖が俺の喉笛を絞め あげている。


全てを捨てろ――捨てたつもりだった。甘かった。全ては了司の言うとおりだった。


「師匠……」


もう俺を師と呼ばなくて良い――泣きそうになった。泣いた。俺は車の中でむせび泣いた。了司が 怖かった。俺の暗黒が怖かった。俺はまだガラクタだった。


なぜなんだ。なぜ、今更、俺を壊す。アンタならいつでも壊すことができた。俺をぶっ壊してことねをぶっ壊して 悦楽に入ることなんかすぐできたじゃねぇか。


わからない――思考回路をぶっ飛ばせ。


わからない――了司を超えろ。


わからない――師を叩き殺せ。


わからない――無理なんだ。


どんなパターンを想定しても俺は了司に勝てなかった。可能性はゼロに近かった。どんなに策謀を巡らせても了司に 感づかれる。


携帯を道路に投げ捨てた。俺の体のどこかに発信機が仕掛けられているだろう。今、着ている服は全て焼却 しなければならない。


怖い。だが、戦わなければならない。戦わないで済む手段、なかった。了司に逆らうことなどできない。また、 俺はことねには逆らえない。


殺すしかないんだよ――俺の王を。


「……考えろ」


思考回路の加速――焼き切れても構わなかった。俺の絶望の力が少しでも知性の輝きを帯びるなら。俺の 貧弱な脳みそが了司の力を少しでも超えられるなら、その後、俺はいつ死んでも構わなかった。


ダメだ――俺は今の段階では了司に勝てない。


思考回路の演算結果――正しい結論。だが、それでいい。






























「一つ、一万、サーヴィス、十つ、九万」


下手糞なイントネーションの日本語――格下。


ボロボロのガタが来たビルで俺は中国人と交渉した。拳銃、五十万もふんだくられた。相場よりはるかに高かった。 弾丸も三十は欲しい。


「お前、おかしい。人を殺す。俺達に金、渡せ」

能面のような顔をした中国人。在日二年目だと言っていた。就労ピザなどとっくに切れているだろう。歓楽 街に生息する魔物ども。利用しない手はない。


「俺の手でぶち殺してやりてぇんだよ」


「意味ない。俺達が殺す。お前が殺す。どちらも同じ。死」


いっそ凶手に頼る。考えないわけではなかった。

だが、そんなもので了司が死ぬとは思わなかった。元々、得たい もしれない男、ヤクザの幹部かもしれない。すなわち、中国人に手を出せるわけがない。


サイレンサーをつけた。リヴォルバータイプ、オートマチックが欲しかった。だが、贅沢はいえない。日本で 銃が手に入るルートは少なすぎる。

「一発撃っていいか?」


「お前の弾、好きにしろ」


撃った。銃口が火を噴いた。コンクリートに弾丸がめりこんだ。弾丸を射出することによる手への衝撃、覚 えた。


「いい具合だ」


拳銃を背中のベルトに差し込んだ。中国人は俺を見ていた。ジッと見ていた。


「拳銃を欲しがる日本人。皆、弱い。歯も、身体も、ガタガタ」


言葉を切った。


「お前、違う。殺す、違うか?」


「護身用って言ったじゃねぇか。身を護るためだ。勘違いしないでくれ」


「……わかった。精々、頑張れ」


弾丸の金を渡した。俺の貯金残高――五百万足らず。それでも、俺が汗水たらして働いて貯めた金 だった。


使い切っても構わなかった。どちらにせよ、俺はもう破滅している。






























コロンビア人からクスリを買った。注射タイプ、思考を暴走させる魔性の薬。覚醒剤。


打った。思考がクリアになった。感覚が鋭くなった。いつも以上に思考回路が加速した。


了司――アンタもこんな気分なのか。いつも、こんな風になっているのか。俺も今、他人の 脳みそが見えるよ。


視覚、嗅覚、触覚、味覚、聴覚、全てが覚醒している。何もかもが人間の限界に到達している。唾液の 苦い味をかみしめながら俺はハンドルを操作した。


爽快感――思考がぶっ飛んでる間に俺は考え事を進めなければならない。了司に関するあらゆることを 調べ、推理し、検証し、知り尽くさなければならない。


了司の弱味、あるはずがない。だが、調べて掴め。俺はあの男を殺さなければならない。暴力で、知性で、俺の 武器で、俺の剣で王の首をハネる。


全力を尽くさなければ一太刀浴びせることすら難しい。俺はあの男に勝てない。それは絶対的だ。あの男は 俺を超越している。能力の問題でも、運の問題でも、心の問題でもない。


何かが――俺とは違いすぎるのだ。


根源たる魂のレヴェルが違う。俺は劣性だ。いつだって俺は劣等感をもって生きていた。他者より自分が劣っている という強烈な自己嫌悪と劣等意識が俺を狂わせていた。


俺の性格だった。俺の害悪だった。だが、今更、矯正できるものではない。


環境は俺を狂わせた。俺は変わった。俺は変わりすぎている。


俺は――それでも、まだ生きている。


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