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台北の国連本部から!

      *


 一瞬だけ画面にカー・レースの模様が映ったような気がしたが、すぐにニューススタジオに切り替わった。


「えー、番組の途中ですが、臨時ニュースをお伝えします。13時44分、国連は、いま地球は存亡の危機にあるとの発表……、え? えーと、(何よこれ)(マジだって)(ハァ?)(いいから読んで)えー、存亡の危機にあるとの発表を行いました。国連のグエン・ドゥック・フォン事務総長は、つぎのように述べました」


 キャスターの音声が途切れるのを待たず、画面はどこかの記者会見場に切り替わった。白いテーブルとマイクの束を前にして、恰幅のよい東南アジア系の老人が、緊張した表情を浮かべている。


≪グエン・ドゥック・フォン国連事務総長による発表の模様です≫


「(パシャッ)えー、始めます(パシャッ)。よろしいですか。2034年9月6日、チュニジア政府より、同国ビゼルトのUFOスポットにおきまして、通常よりもはるかに巨大なUFOが、漁業者のロープにかかったとの報告がありました。大きさは全長ベースで平均の80倍、葉巻型です。一度ロープをかけたものの、あまりの大きさに捕獲は断念されたのですが、UFOはそのまま上空に留まりました。その後、このUFOから現地漁協の映像無線に割り込みがありまして、宇宙人からのメッセージが伝えられました。人類と宇宙人との、ファースト・コンタクトです」


 会場がどよめく。記者の中から質問が飛んだ。


――ちょっと待ってください。今まで30年間漁をしてきて、我々は一度も宇宙人と対話したことがなかったんですか?


「順を追って説明します。そうです。初めてです。わたしも驚きました。人類史上に残る、一大事件です。……えー、幸いチュニジア漁協は同国政府の管理下にあったため、メッセージはすぐにチュニジア政府に報告されまして、それが国連に急報され、IUCC理事国間で対応を協議することとなった次第です。ゴホン」


(パシャリ)


「メッセージは132カ国語で書かれていました。宇宙人の主張はこうです……。『銀河系の全ての惑星、およびその惑星に属する資源は、銀河系政府に帰属する。ただし、ある惑星を占有する知的種族には、先住権および自決権が認められる。これはその種族が惑星に固有のものであり、惑星と不可分だからである。ただし、これには条件がある。すなわち、惑星を支配する知的種族が、単独でその惑星を支配管理していることである』だそうです」


――要するに?


「宇宙船地球号は、銀河系艦隊のランチボートに過ぎないということです。我々は地球の処遇に対して優先的な権利を付与されますが、そのためには、我々以外に地球の支配者がいないことを証明できなければならないということです」


――勝手なことを! 地球は明らかに我々人類のものだ!


「私もそう思います。そうでなければならない。しかし、もう少し聞いてください。宇宙人の主張には、もう一点、我々の考えと相容れない点があるのです」


――どういうことです?


「実は、IUCCに事態が伝えられてすぐに、一部の理事国がUFOに対して独自に接触を行いました。残念なことですが、このことの是非については、今は措きます。問題は、その結果、宇宙人の認識では、我々は地球の支配者として不適格であることがわかったことなのです」


 再び会場がどよめいた。


――ええっ! 先ほどの条件では、地球を単独で支配していれば、人類は支配者としての公認を受けることができるのではないのですか?


「我々人類は、現在、複数の、かなり多数の勢力に分裂して、相互に足を引っ張り、相手を攻撃し、固有文化を否定し、とても単一の種族とはいえないほどの内部矛盾を抱えています。この場合、先住権は保証されますが、人類という単位での自決権は認められない、というのです。我々は宇宙人に、地球を一元的に支配・管理するだけの能力がないとみなされたわけですね。ゴホン」


――自決権を認められないとすると、我々はどうなるんですか? 宇宙人の支配下に置かれるとか、そういうことなんですか?


「そうではありません。今後、あくまで対等な銀河系の住人として、宇宙人が地球の政治に干渉してくるということです。繰り返しますが、彼らの認識では、地球は銀河系の共有物なのです。国際社会において、公海が我々の共有物であるようにね。我々は地球の管理に関して、宇宙人たちと対等の権利を保障されますが、それだけです。もう地球は人類だけのものではありません」


――まさか、それを呑んだんですか!?


「呑んだ? 誰が? これは国連の次元を超えた問題です。国連にはすべての国が加盟しているわけではありません。国連は人類の代表ではない」


――それはそうですが、しかし、他にどんな組織が対応するというんです? 国連は確かに不完全だが、現時点でもっとも完全に近い存在ではないのですか? 誰かが対応しなければならないのなら、最もふさわしい者が当たる以外にないのでは?


「あなたは勘違いをしている。国連という組織が存在すること自体、人類が分裂状態にあることの証左なのですよ。我々がのこのこ出て行ったところで、彼らは取り合わないでしょう」


――でもほかにどうしろと? このまま座して、宇宙人の処断を待てと言うのですか?


「そうではありません。人類は、この問題に対処しなければならない。ただ……国連はその名の通り国家の連合体であって、ご存じのように、諸加盟国代表の総合的な意志によって運営され、判断し、……。」


――なぜ、そこで言い淀むのです?


「包み隠さず申し上げましょう。この問題に対して、IUCC理事国は、既に独自に行動を開始しています。旧IUCC理事国と言ってもいいでしょう。それに加え、いくつかの大国が彼らに追随しました。東中国とロシアです。彼ら大国は、国連を離れ、彼ら自身の力で問題に対処しようというのです」


――なんですって? では、この会見の意義は?


「チュニジア政府は、国連に対して事態を報告してきました。我々は国際社会の代表として、これに対処する義務があります。しかし、問題に最も近いところにいるはずのIUCC理事国は、この問題に対して、『国際社会として』対応する道を拒んだのです。IUCCは解体されるでしょう。この会見は、彼らを除いた国際社会がどうすべきか、全世界の皆さんに問う目的で設けられたのです」


――しかし、大国に離反されてしまった国連に、どんな力があるというのです。


「仰るとおりです。しかし、我々は行動しなければならない。一両日中に、国連緊急総会が開催されるでしょう。総会に備えて、全世界の皆さんに、我々の置かれた立場について、あらかじめ認識しておいていただきたいのです」


――待ってください。加盟国民の意志は、国連大使を通じて、間接的に国連に反映される建前ではないのですか? このような会見を先に行ってしまうのは、国連のありかたに反するのではありませんか?


「そうです。しかし、今回の件に関して、我々人類は今までのような……政治ゲームを行う余裕はありません。間接民主制は効率的ですが、櫓をぶつけ合うアジアの祭りのようなもので、上下の意志が必ずしも一致しないことは皆さんご存じの通りです。対応を誤れば、下手をすると人類が滅びます。……すでに卓から立ち去った国々があります。ほかの国々まで小さな利益に左右されると、本当に為すすべがなくなります。直接民主制は不可能ですが、せめて情報だけでも全人類が共有して、より強い形で事に当たらなければならないのです」


――国連は否定されてしまうのですか? 国連が抱える他の問題はどうなるんですか? 国連は、この件のためにだけ存在しているわけではないはずです。


「……我々は機能を停止するわけではありません。この問題に関してだけ、特別な扱いが必要になると考えています。一貫性を失うことによる損失は当然あるでしょうが、そのことを気にするあまり、立ち止まっている余裕はないのです。いま発表できることは、以上です」


(パシャッ)(パシャ)


――これは一体、どういう……(パシャッ)


(パシャッ)


 画面がニュース・スタジオに戻った。


「台北の国連本部からでした。ジェレミー、どうやら単なるジョークじゃないみたいね」

「うーん、ぼくはまだちょっと信じがたいけど。まるで映画みたいな話だよね」

(ピルルッ、ピルルッ)

「あっ、え? はい、いま別の映像が入りました。これは……」


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