バヨナラ!
市松模様の床の上に、緑色のボウリングピンのようなものが立っている。表面はつやつやとして、それでいてじつに柔らかそうだ。
と、急にピンの表面に鳥肌が立った。同時に、胴の中央部が球形に膨れる。奇妙なことに、その膨れた部分が、首を伝って上昇し始めた。まるで異物を吐き出す蛇である。
球状部がピンの最上部まで達すると、突然、ポンと音を立てて、そこに角張った人間風の顔が彫り込まれた。目ふたつ、鼻ひとつ、口ひとつ。だが、明らかに人間とは違う造形の顔だ。その顔が口を開いた。
「いやー、みなさん、いかがでしたか。今回は失われた文明シリーズ第29回、トホホ星系第3惑星の最期について、現地で収集された記録映像を編集してお送りしました。さて、この惑星の住民たちはなかなか高度な文明を持っていたのですが、やることなすこと支離滅裂、常に自分自身をぶん殴っているような状態で、本当に始末に負えなかったんですね。あまつさえ我々の使い捨て調査船を資源だといったり、友人だと言ったり、その割に奴隷クルーの存否をまったく無視していたり、本当にわけのわらないこと、この上ない宇宙人でした。しかも面白いことに、彼らはちょっと相手に気に入らないところがあると、それが相手の全てでもあるように振る舞うんですね。アホですね。バカですね。ちょっと考えたらわかりそうなものなのにね。偏った情報に触れると、あっというまに染まってしまう。そして、あとで後悔するんですね。どうしようもありません。たとえば今回の映像ですが、我々の調査では、これを見て憤慨したり、一部の人物を罵ったり、とにかく忙しく大騒ぎした個体が沢山いたということです。いやー、本当に、救いようがありませんね。結局彼らは、宇宙行政局の課した友愛テストでも同士討ちをやってしまい、宇宙法第5963条第893項の規定によりまして、だめだこりゃ星人として処分されることになってしまったわけです。いやー、ほんと、宇宙は広いですね。……さて、お別れの時間が来てしまいました。次回は失われた文明シリーズ第30回、惜しまれつつ滅亡した、エキゾチック星のムッチプリン人についての記録をお送りいたします。お楽しみに! それではまた、
バヨナラ、バヨナラ、
バヨナラ!」