北アフリカから②!
ポッ ポッ ポッ ポーン……
薄い金髪の中年美女が、広いニューススタジオの中央で微笑んでいるのが映った。
「6時になりました。サンドラ・ニースが朝のニュースをお伝えします。まず三日前から世界を震撼させている、チュニジアの葉巻型UFOについてのニュースです。BBQローマ支局のマルチェロ・ガルッピが、現地からお伝えします」
*
乾いた光に照らされて、岩がちの丘が緑色に輝いている。谷間に沿って、無数の自動車が列を作っていた。ゆるゆると進むどの車の上にも、定員の三倍はあろうかという男たちが乗っかっている。中にはそのためにルーフをへこませているポンコツさえあった。
「おッはようございまーす! チュニジアは4時間前にすでに夜が明けています! UFOには全く動きがありません! 夜半からトラックやジープなどを使い、たくさんの人々がここビゼルト県の山中に集結しております!」
ウォオオーッ! ヒューッ! イェーッ!
カメラに気づいた車上の漁師たちが、手を振ってリポーターらの気を引こうとする。
「溢れんばかりの人を乗せたトラックが、通り過ぎざま、こちらを手を振ったり口笛を吹いたりしています! 意気軒昂といった様子です! バラック資材を運ぶ輸送車があとに続き、その後ろは、食料でしょうか、あ、水かな? ドラム缶や梱包物を積んだ車が続いているようです。いやあ、たいへんな喧噪ですね、まるでお祭りのようです! おっと、」
「おうおう、どいてくんな、こかぁ道のど真ん中だぜ」
リポーターの後ろに、背を丸めた老人が立っていた。大きな荷物を背負い、柄の長い金属のハンマーを杖代わりに使っている。片方の目は潰れていた。
「失礼。英語話者の方ですか? 徒歩ですか? どちらから?」
「アレキサンドリアだ。フェニキア超特急で今朝ビゼルトに着いたんだ。乗り合いバスに乗ったんだが、山の向こうでエンコしちまってな、めんどくせえから歩くことにした」
「なるほど大変ですね。いまちょっとお話を伺ってもいいでしょうか?」
「んん? オレぁ、これからあのUFOんとこまで歩かにゃならんのだぜ」
「放送車でお送りしますよ」
「オッ、ありがてえ。なにを聞きたい?」
「どうしてまた、わざわざそんな遠いところから来ようと思ったんです?」
「ハァ? アホか。近いも遠いもあるかよ。いまここに来ないで、一体どこに行くってんだ? バハマか?」
「……いえ、失礼しました。それではやはり、チュニジア漁協の呼びかけに応えるために、こちらへ?」
「ヘッ、連中は関係ねえよ。UFOが地上を照らすだろ。したら俺らはそこに集まってくんだ。引き寄せられるのさ。漁協の呼びかけは飾りみたいなもんだ。奴らが放送で絶対に来るなッつっても、どうせみんなここに集まってきたさ。なんせ、こんなデカブツと真っ向からやり合える、たぶん最後の機会なんだ」
「最後? といいますと?」
「大国トリオは俺らを焼く。多分今日か明日中にな。俺らが勝とうが……善戦しようが、奴ら自分たちの安全のためなら、一番確実で破壊的な方法を選ぶに決まってる。なんてったって、ガバメント・フォー・ザ・ピープルだからよ」
「……さて、それはどうでしょう……」
「おめえもよ、死にたくなけりゃあ、さっさとどっかに行ったほうがいいぜ。UFOフィッシャーでもねえのに今頃こんなところをうろついてる奴ぁ、馬鹿か、楽天家か、よほど剛毅な野郎だけだ」
「なるほど。では例えばこの私、その三つの中だとどれだと思いますか?」
「アホか。俺が知るかよ」
「アホ! それだ! それでいこう! ……おっと時間だ。皆さんご覧ください、この剛毅な人々! とひとりのアホ! われわれは、これからあの恐ろしいUFOの元へと参ります! 本当に我々には勝ち目がないのでしょうか! 答えはのちほど!」
「イタリア人ってのは、気楽でいいな」
*
「チュニジアからマルチェロ・ガルッピでした。なんだか思ったよりも平和で、拍子抜けですね」
画面の脇からツッコミが飛ぶ。
「……どこが?」
「言ってみたかっただけです。さて、このあとは朝の連続テレビ小説、『そこのけそこのけ、アーサー王がゆく!』です……」