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アメリカ東海岸から!

 ここで、なんの予告も効果音もなく、映像が真っ黒にフェードアウトした。それから二、三拍おいて、書斎風の部屋が画面に映る。壁一面の本棚を背に、安楽椅子に座った初老の男性が、咥えた葉巻を灰皿の縁に置いたところだ。


≪ピッツバーグのウォーター・メロン大学から、ハリー・ローバン教授の談話です≫


「……どうも。アメリカUFO資源学会会長のローバンです。よろしく」


 挨拶を承けて、画面外にいる男性が、落ち着いた声でインタビューを開始する。


――よろしくお願いします。早速ですが、今回の宇宙人による権利要求について、教授はいったいどういうふうにお考えですか。


「来るべきものが来たな、という印象です。30年前から、人類は自ら地球にUFOを呼び込んで、宇宙人たちの興味を煽ってきました。そんな都合よく資源だけ調達できるなんて、そんなうまい話はありませんよ」


――このような形で宇宙人と接触することを、以前から予測していた?


「いえ、具体的にこういう形になるとまでは予測していませんでした。来るならもっとこうドカンと、攻撃的に来るんじゃないかと思っていましたね」


――彼らの要求は、妥当なのでしょうか?


「われわれにとってはとんでもない話に思えますが、彼らの理屈も通っています。地球が銀河系の共有物だという主張には、それなりの説得力があります。地球を安全に管理するにはわれわれの能力が不足しているという主張にも、思い当たるところがないわけではありません。たとえば30年前に比べると、ユーラシア大陸東部は死の土地のようになっています。環境汚染でね。ゴビ砂漠から東の広大な領域には、バイクとバギーを駆って襲撃しあう、ネオ馬賊しか住んでいません。それもこれも、すべて人類の過失によるものです」


――では、彼らを地球に迎え入れて、共同統治に同意すべきだと?


「いいえ。それは危険です。共同統治論には重大な欠陥があるのです。彼らとともに地球を管理できるという考えは、彼らが人類ではなく、地球外生命体だという事実を過小評価しています。彼らの宇宙観は、われわれとは全く違う」


――そうなんですか? どうしてそんなことがわかるんです?


「彼らの宇宙観を直接知ることはできません。また、それがわれわれに理解可能なものなのかもわかりません。ただ、30年間におよぶ捕UFO産業の経験から、ある程度のことは推測できます」


――というと。


「彼らは極端に全体主義的な種族なのです。宇宙人たちは、ひとつひとつの個体を恐ろしくぞんざいに扱います。そして各々の個体からしても、みずからの身を守るとか、UFO漁師に抵抗するとか、そういうことに一切関心がありません。堕としたUFOを解体すると、だいたい一名か二名の宇宙人が中にいます。彼らは4フィートくらいの背丈の子供のように見えます。頭部があり、四肢があって、直立しています。UFOの解体が始まると、彼らは物珍しそうに、まるでお客さんのように、われわれの作業を見物しはじめます。UFOを墜とされて憤慨するとか、われわれと戦うとか、そういったことは一切しません。彼らの肌は地球の空気に触れると、ものすごい勢いで化学反応を起こします。まるでコーラの泡で覆われたみたいに、激しい沸騰を始めるのです。しかし彼らは苦しむ素振りを見せません。そしてわれわれの作業を見物しながら、従容として蒸発していくのです」


――それは、すごい。


「そう。生体ロボットか何かのように、無感なのです。解体作業を行う者は、彼らを長時間見ていると、高い確率で発狂します。そのため、作業者は意図的に彼らから目をそらす訓練をするのです。彼らが猛烈に皮膚を沸騰させながら近づいてきても、決して目を上げない。沸き立つ音が聞こえても、聞こえないふりをする。誰にでもできることではありません。UFO漁業者が高給を約束された専門職なのは、ただ作業が危険だからなのではありません。ベテランになればなるほど、関係者は自然に宇宙人乗組員の存在を忘れるようになります」


――待ってください、それじゃよく言われるように、米豪が捕UFO業の中心だった数十年間、飛来するUFOはすべて無人機だったというのは嘘なんですか?


「嘘というか、都市伝説です。UFOを捕っているが宇宙人は殺めていないなんて、そんな都合のいい話はありません。しかしその噂はわれわれに都合がよかった。ユーフォニウムの恩恵に与る市民たちにとって、甘い噂は常に真であるのです。そして漁業関係者らはさきに述べた理由によって、宇宙人の存在を無意識下に押しやる訓練――今だから言いましょう、事実上の洗脳です――を行っているため、彼らについて積極的に発言することがありません。また産業界は、得にならないことは言いません。結局、UFOは無人だという噂を否定する者はいなくなってしまうのです」


――宇宙人を殺すことに、良心の呵責はないのですか。


「その質問にひとことで答えると、おそらく誤解を招きます。まず先ほど述べたように、宇宙人たちは個体としての生に頓着しないという事実を思いだしてください。彼らの生死に過剰な意味を与えるのは、われわれが人間としての生の価値、裏返せば死の恐怖を、彼らの上に投影するからです。それは意味のないことです。仮に彼らが単なる洗脳されたファシストで、彼ら個人個人の生に対していかなる価値も感じていないだけだというのなら、話は違ってきます。しかし、それはアド・ホックな仮説です。そういうことではないのですよ。発狂しない自信がおありなら、ためしに漁業の現場にいって、沸騰する宇宙人をご覧になってください。彼らはまさしく蒸発していくゲルそのものです。意志を持った液体のようなものです。そこに無理やり意味を見いだそうとすれば、あなたは正気を失うでしょう」


――宇宙人たちは、生きている価値がないと。


「その問いには、あるべき価値を認めないという含意がありますね。そうではありません。彼らの生に関して、個体としての価値というものがもともと定義されていないのです」


――どうしてそんな種族が存在しうるのでしょう? どうして滅びもせずに、繁栄することができるのでしょう?


「確かなことはわかりません。ただ、わたしはひとつの仮説を持っています。わたしが考えるに、彼らは種族全体でひとつの個体なのです。たとえば蟻や蜂の巣のような組織、あれをもっと純化して、個々の個体の価値を完全にゼロとしたようなものです。人間にたとえれば、種族全体がひとりの人間で、個々の宇宙人は交換可能な細胞のような存在なのです。われわれは普通、自分を構成するひとつひとつの細胞の生死に注意を払いませんね。それと同じことが、宇宙人の全体と個体との間に言えるのだと思います」


――なるほど。われわれとはずいぶん違いますね。


「ええ。そして、そう考えると色々と辻褄があうんですよ。例えばなぜ宇宙人たちは、人類には地球を管理する資格がないと断じるのでしょう。彼らの組織と比較すると、地球人類は分裂症を発症しているように見えるからです。彼らにとって、われわれは人類という種族ではなく、人類という名の発狂した個人なんです」


――なるほど。だとしたら、われわれはどうすべきなんでしょう。


「抵抗するしかありません。地球を共同統治などということになったら、彼らは必ずわれわれを排除しにくることでしょう。パラノイアの人間と二人でドライブに行くことになったら、あなたは彼に運転手を任せたりしないでしょう? 彼らもそうです。彼らはわれわれにはなにも期待していないのです。彼らが直接攻撃ではなく、交渉のような迂遠な手を使って地球を手に入れようとしているのは、恐らくそういった手続きを要求する銀河系全体のルールのようなものがあるのでしょう。しかしその一線を突破されれば、地球は一気に彼らの手に落ちるはずです」


――しかし、それだけ複雑な背景があるとすれば、戦わなければならない相手はあの葉巻型宇宙船だけではないはずです。抵抗してどうにかなるものでしょうか?


「わかりません。しかし、座して死を待つよりは、よほどいいでしょうね」


――ありがとうございました。


≪ウォーター・メロン大学のハリー・ローバン教授でした≫


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