番外編小話 七色の人生
ちょっとした小話です。
ランタナの人生は、気まぐれだった。
楽しそうなことは全てやり、欲しいと思う物はどんな手段を使っても手に入れる。
だから、陛下である男が道端で死にそうになっていたのを助けたのも、ほんの気まぐれだった。関わったら何か楽しそうなことが起こる気がする。
本当にそれだけだった。
(それが、真逆あんなにいい女に出会えるとはねぇ。人助けも偶にはするもんだねぇ)
ランタナは陛下に寄りかかりながら、開いたグラスに酒を注ぐ。
「ユリーさまぁ、どんどん飲んでねぇ」
「嗚呼、ありがとう。君に注がれると酒も美味いな。あの女とは大違いだ」
「そういえば、今日は週に一度のお渡りの日じゃなかったっけぇ?」
「思い出させないでくれ」
ここ最近、陛下はアメリアの元へ渡ることなくランタナのところへばかり来ていた。
「私のところにいちゃダメなんじゃないの〜?」
「君のことを暗殺者呼ばわりする女のところになんか、行くものか」
「ダメだよぉ〜、約束破っちゃ。酔い覚ましのお茶入れてくるからぁ、それ飲んだら王妃ちゃんのとこへ行った方がいいよぉ〜」
一方的に捲し立てたランタナが、お茶を入れるために席を立ったところで、陛下が彼女の腕を掴んで止めた。
「何故、そんなことを言うんだ。いつもは何も言わないではないか」
「だってぇ〜、今思い出しちゃったんだもん」
そう言うとランタナは、優しくだが確かな意志を持って陛下の手を払い除ける。
「待っててぇ、お茶入れてくるから」
不満そうな顔をしたものの、今度は止めなかった。
ランタナが侍女を呼んで、お湯と茶葉を持ってくるように頼むと、直ぐに用意して部屋まで運んできてくれた。それを受け取って「ありがとう」と声をかければ、王宮勤めの侍女たちは心得たとばかりに何を言うこともなく下がって行った。
(流石、王宮の侍女ちゃんたち。なんでも汲み取ってくれてありがたいねぇ)
ランタナは、受け取った茶器を陛下から離れたところに置いてある机の上に乗せた。そして、缶の中から茶葉を取り出し、お湯を注いで蒸らす。
その間にことを済ませなければならないと、胸の谷間に指を押し入れた。豊満なそこからは、赤い液体の入った小さな瓶が出てきた。
ランタナの背中しか見えていない陛下は、それに気がつかない。小瓶の蓋を開けると目尻のあたりを指でつつく。そうすれば、あっという間に涙がこぼれ落ちて見事に小瓶の中に一滴入った。涙を自在に出せるのは、ランタナの特技のひとつだ。
「ランタナ、茶などいいから、早くこちらに来てくれ」
「はぁ〜い、ちょっと待っててねぇ」
陽気に返事をしながら、手元の小瓶をくるくると回す。元から入っていた赤い液体と透明な涙が混ざって、美しい黄金色に姿を変えた。
その様を見て、ランタナは機嫌良く笑う。
──魔女の血と涙を混ぜれば毒になる。
いつから言われたことだったのかランタナは別に興味もないが、この伝説を流した人物には感謝している。
(だって、こんなに便利な能力を魔女にくれたんだもん)
魔女が持つと言われている魔力は、本来誰でも持っている力なのだ。だが、殆どの人間は持っている魔力が少な過ぎるために自分は持っていないと勘違いする。つまり、全く魔力を持っていない人間なんて存在しないのだ。
人間は、その量は様々だが魔力を持っている。
その量が多ければ魔女と呼ばれ、少なければ人間と呼ばれる。ただそれだけの違いだ。
魔力が少なすぎる人間は気がついていないが、言葉にはその力が宿っている。言葉にすれば願いが叶うなんていう言い伝えがあるが、それはあながち間違っていないのだ。
だが、人間ひとりが持つ魔力は非常に少ない。そのため、人間ひとりが言葉にしたところでそれが本当になるなどという都合のいいことは起こらない。もっとも、魔女であっても口にするだけでその通りになるなんて技は到底出来ないが‥‥‥
ただし、それに莫大な量の人間の魔力が集まれば話は変わってくる。
そう例えば‥‥‥誰もが知る伝説のような話になれば、その言葉には何人、何百人もの魔力が蓄積されて、軈て本当になるのだ。
こうして魔女たちは、血と涙を混ぜ合わせることで毒が作れるようなったのだ。
そうそう何十年か前から、魔女は変装した相手の機能まで真似出来るという伝説が広まっているらしい。それが本当になるのも、きっと近いだろう。
(ほんと人間って馬鹿だよねぇ。恐れている存在を自分たちで強くしちゃうんだもん)
それでも、ランタナは教えてなんてやらない。だって、これは魔女たちにとって都合がいいことだから。
さて、そろそろ紅茶が出来た頃だ。
ティーポットに紅茶を注ぐ。綺麗な紅色だ。
そこに小瓶から黄金色の液体を一滴垂らす。美しい黄金色は、紅色に混じってわからなくなった。これで、準備万端だ。
ランタナは紅茶をトレーに乗せると、陛下の元へ戻った。そして、紅茶を陛下の前へ差し出して邪気のない清らかな笑みを浮かべる。
「ユリーさまぁ、どうぞ」
「嗚呼、ありがとう。うん、君が入れるお茶はいつもいい匂いだな」
ランタナはその清らかな視線を、陛下がティーカップに口をつけたその瞬間まで崩さなかった。
(ユリー様は、私の差し出すものは毎回毒味なしで食べちゃうんだから、都合がいいよねぇ。私の時じゃ考えられない行動だよぉ。私がキャロラインを名乗っていた頃の陛下は、誰であろうと信用しなかったもんねぇ)
あの頃は聖女なんてものをやらされて退屈だったなぁ、とランタナが思考を飛ばし始めた時、紅茶を飲み終えた陛下がティーカップを机に荒々しく戻した。その音で現実に引き戻されたランタナは、目の前で酩酊しているようにしか見えない陛下を一瞥して笑みを深めた。
(効果が出るまで三十分っていうところかなぁ)
あらぬ方向を見てランタナ、ランタナと呟く陛下の腕を掴み上げて無理矢理立たせる。
「さぁ、陛下、お茶も飲んだし、そろそろ王妃ちゃんのところへ行きましょうねぇ」
「王妃っ‥‥‥?」
「そうだよぉ、今日はそっちに行くって言ってたじゃん」
「嗚呼‥‥‥そうだったか」
そう言うと陛下はふらふらとしながら、部屋から出て行った。あんな状態でアメリアの部屋にたどり着けるのか心配だが、まぁ大丈夫だろう。そう思いながらランタナは、手早く部屋の片付けを始めた。
陛下が口をつけたティーカップは、魔法で原料に戻して小瓶に詰めた。あとで一緒に海にでも捨てよう。
さて、下準備は終わった。あとは、頃合いを見て赴くだけでいい。
(王妃ちゃんは、私の思い通りの行動してくれるかなぁ)
まぁ、別にどちらでも構わない。
こちらの予想通りでも、そうでなくてもランタナが楽しいことには変わりないのだ。だが、陛下のことを自分が殺したと勘違いして縋り付く姿は、きっと、とても可愛いだろうなとは思う。
「本当、楽しすぎて困っちゃうよぉ。ねぇ、王妃ちゃん」
愉快そうなランタナの呟きは、王宮中にいる誰の耳にも届かなかった。
これで完全に完結です!
お付き合いいただきありがとうございました。短い間でしたが、評価やブックマークを付けてくださった方もいてとても励みになりました!
なろうでは、毎日沢山の小説が投稿されていると思います。その中で、この小説を見つけてくださってありがとうございました!
また何か書くことがあると思いますが、その際はよろしくお願いいたします。




