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僕らのかくれんぼ。  作者: 森永れお
1/1

1日目


もういいんだ。



僕の勝手だろう?





「僕の人生なんだから」





いつの間にか、僕は眠っていたようだ。


意識がハッキリしないまま、目を覚ますとそこには



「かなで!ちょっ、みんなー!奏が起きたわよー!」


少しがたいの良い、赤いストールを肩に羽織り、前下がりのボブヘアーの女性は僕に背を向け叫ぶ。彼女の野太い声に多少の違和感を覚えながら、眠気で再び目を閉じる。


今わかることは、僕は自宅で眠ったつもりが

ログハウスのような場所でご丁寧にベッドの上。

僕の横には声が野太い女性。

僕の名前を知っていて、『みんな』がいる…?


…よくある転生ものか?

僕は転生できたのか?

ははっ、なんちゃって。

多重夢って感じかな。


深く考えずにぼんやりとしていると、

ドタドタと慌ただしく騒がしい足音が聞こえた。


と、次の瞬間米俵ほどの重さが腹に降ってきた。



「ゔぇっ!!」



僕は思わずえづいた。



「かなでー!心配したんじゃよー!よかったあ!よかったあー!!!」



悶え苦しむ僕を無視して

米俵はおいおいと泣きながら僕に頬ずりをする。

さすがに目を開けると、見知らぬ人が増えていた。



「ま、これで一安心やな!士郎、つきっきりでありがとうな。お疲れさん」



関西弁の男は、がたいのいい女性の肩をトントンと叩き労い部屋を立ち去った。



「やだ!ありがと!って、士郎って呼ばないでよ!ちゃんとバンビって呼んでー?!」



立ち去る男に向かって『士郎』はまた大声で叫ぶ。


まて、情報量が多い。



「士郎…?」



僕は思わず心の声が漏れた。



「あっ、そうなの。あたし。今の言葉で言うと、トランスジェンダーかしら?見た目は男みたいだけど、中身は女!バンビって呼んでね〜!」



士郎と呼ばれた女性はウインクと投げキッスをする。

寝起きにこのテンションはきつい。

夢であってくれと願った。



「バンビは誤解されやすいが良いヤツじゃよ!無論、ここにおるヤツは、みな良き家族じゃ!」



米俵は横たわっていた僕の頬ずりを止め、

ガバッと上体を起こして僕の頬を両手で挟む。

まだ10もいかないほどの少女に見えた。

飛び乗ってきた重力で米俵と感じたのだろう。

小動物を腹に乗せているような軽さだ。


白のワンピースと白く綺麗な長い三つ編みをひとつに括り

見つめられたその瞳は綺麗な透き通るような碧。

アルビノ、という子だろうか?

彼女の神秘的な外見に見惚れていた時



「リーナ、乱暴はいけません。奏、あなたはここへ来て1週間眠っていたのです。話さなくてはならない事もあります。もちろん体調次第ですが…」



穏やかでありながら芯の通った声が僕の横で聴こえた。

ハッとしてそちらに目をやると、

金髪ベリーショートの女性が無表情で僕を見下ろしていた。

鋭い眼孔のせいか彼女の気迫に、少し怯えて声が出せずにいた。



「夕飯は食べるに決まっておろ?のぅ?まあ今日は流動食じゃがな!」



遮ってリーナと呼ばれた少女は何故か得意げに言う。

誰に問いかけたわけでもなく、僕は思った言葉を発した。



「…聞かせてください。ここはどこですか?」



士郎が嬉々として答える。



「ここはね〜?!あたしたちは『ティアレ』って呼んでる無人島なの。この無人島にいるのは、あなたの上に居るリーナ。隣の金髪のハノン。さっきの関西弁の男の子、騎壱きいち。士郎ことバンビのあたし。それから」



士郎の視線の先は、

部屋の隅で薄いピンクのパーカーのフードを深く被り、

制服の様なプリーツスカートを履いた人がいた。

その人は士郎の紹介を受け、僕に会釈をした。



「あの子、しらべ。あなた、奏の6人だけよ。」


「…なんで、僕はここにいるんですか?」



和やかなムードは、僕の質問で部屋がピリついたのを感じた。

『しらべ』を除く3人が顔を見合わせる。

少し間が空いて部屋の外から声が聴こえた。



「それなあ、俺らにもわからんへんねん。6人みんなで浜辺で干上がってたんよ。俺が最初に目醒まして、そこから芋づるで起こしたけど、唯一、今まで目を覚まさんかったんが奏や」



トレイに6人分のカップと麦茶を乗せ、

八重歯を剥きだし笑いながらやって来た関西弁の『騎壱』。

改めて見ると、20後半の洗練された顔立ち。

服装は地味ながら、彼が学生であれば、

間違いなくカーストトップの雰囲気を醸し出していた。

誰にでも人懐っこいイケメン陽キャか…

とてもじゃないけれど、僕は近寄れない。


リーナが騎壱に向け

「わしはコーヒーにせえとあれほど!」とぼやき、

騎壱は「じゃかしい!」と

仲睦まじいやり取りに恐縮しながら



「助けてくれてありがとう。なぜ、僕の名前を知っているんですか?」



次の疑問を投げつけまもなく



「ボクがみんなに教えたの!」



ポンッ!と音と煙を立て僕の目の前に現れたのは

額にはツノが生え、背中には竜の翼、猫の顔と犬耳、

狼のような四肢、ワニのような尻尾を携えた、

両手サイズほどの、恐らく2次元から飛び出してきただろう、

得体の知れない生物だった。



「は?」



謎の生物と突然の登場に理解が追いつかず

戸惑ってしまい周りに目をやると全員の表情が曇っていた。



「ボクはフェン。あ!怖がらなくていいよ。こう見えてボク草食だから食べないよ。人間美味しくないし〜。」



フェンはクルクル軽快に部屋を飛びまわる。



「そして見た目どーり!ボクは神さまの使いなのだー!すごいでしょ!すごいでしょっ!」



再び僕の目の前までやってくると

とんでもないことを言い出した。

なんだって?神様の使い?

状況が飲み込めず呆然としているとフェンは続けて



「…ノリわるーい。ま、いいけど!ところで奏。ボク、とっても優しい神さまの使いなんだ。神さまはキミに『ここに残る』か『キミのいる場所へ帰る』か。選んでいいよってさ。」



そんなの、決まってる!



「かえ」


る。



と言いたかった僕を遮りフェンは続ける。



「すぐにとは言わない。1週間後、答えを聞かせて。神さまはここにいるみんなに『幸せに』なってほしいんだ」



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