ださいおさむ『社用』
軽トラックで、脱輪なさった、お母さまが、「あら」と声を、お上げになったので、私は、運転席のお母さまのほうを、見た。社用の、軽トラックは、左後ろのタイヤが、見事にドブにはまって、空回りしている。
「どうしましょう、こなたさん。ドブにはまってしまいました」
お母さまは、そうおっしゃいながら、慌てなさったご様子もなく、玉蜀黍スゥプの缶詰めを、お口にお運びになると、ゴクゴクと喉に流し込まれ、プハァと息を吐かれた。私は答えて、こう云った。
「ださい」
「え?」
「いえ。ださいおさむ先生の作品は、素敵ですわよね」
「そんなことよりも、これを、なんとかしないと」
ようやく慌てる素振りを、お見せになった、お母さまに、私は、スマホを、取り出して、見せた。
「ロードサービスをお呼びいたしますわ」
「でも、そんなものに来てもらっては。お、お高いんでしょう?」
「只ですわ。だって、サービスですもの」
「まさか。そんな。只でそんなお仕事をされて、儲けは、おありに、なるのかし、ら?」
「そういうものなんですってば」
「それに。困るわ。だって、社用車なんですもの。パパに。社長に。知られたら。叱られるわ」
お母さまは、遂に、ひどく、お慌てになりはじめ、それはもう、見ていられないほどに、無様で、惨めで、不格好で、私は、云ってあげなくては、ならないと、思ってしまって、つい、こう、云って、しまっ、た、の、で、ございま、す。
「お母さま」
「はい?」
「運転手、失格。」
「雁」
津軽の冬は、寒い。