遊星からの物体こほうぎ
南極大陸の雪原をシェルティー犬が駆けている。けっして楽しそうにではない。逃げているのだ。
「犬を逃がすなよ」
低空を飛ぶヘリコプターが犬を追いかけていた。アメリカの戦闘用ヘリコプターだ。
犬が声をあげた。
「汪汪! 汪汪!」
「見ろよ。中国語で鳴く犬なんて初めて見たぞ」
ヘリコプターのパイロットのトムが愕然とする。
助手のタイロンがツッコんだ。
「犬はふつう何語で鳴くと思ってるんだ、トム?」
「そりゃあ英語さ。Bow Wow! って鳴くのがふつうの犬だろ」
「犬は何語でも鳴かない。俺たち人間が犬の鳴き声を擬音語にしちまってるだけさ。国によって別の言葉にな」
「でも俺たちの耳にも『汪汪』って聞こえるのはおかしいだろ」
「ちなみに日本語でも犬の鳴き声は『ワンワン』らしいぞ」
「関係ない。あの犬、やはりおかしい。殺そう」
トムが武器を発射した。
雪原に爆発が起こる。
爆炎が晴れる中を、犬は飛んでいた。
グロい色の翼を広げ、飛んでいる。
「やはりあの犬がバケモノだ!」
トムがそれを追う。
「ノルウェーの調査隊を壊滅させたのが犬だってのは本当だったんだ!」
「気をつけろよ、トム」
タイロンが注意を促す。
「こっちへ飛んでくるぞ!」
雪原の彼方には巨大なUFOが不時着している姿が見えていたが、二人は気がついていなかった。
「うわ!」
「ブル・シット!」
犬がガラスを割り、ヘリコプターの中へ入ってきた。
タイロンが目を覚ますと雪原の上だった。ヘリコプターは墜落して燃えていた。
「トム……?」
慌てて身を起こす。
「トム! 無事か!?」
「無事でーす」
向こうのほうからトムが爽やかに手を振りながら駆けてくる。
「アハハハハ!」
「犬はどうした?」
タイロンが周囲を見回す。
「確か……ヘリの中に入り込んできて……」
「それから僕の中に入り込んじゃいました!」
そう言うとトムの姿が変わりはじめる。
アメリカ人男性の顔が、どんどんと、東洋人女性の顔に変わっていく。
「なんだ……おまえは!?」
「私は謎の物体こほうぎこなたです」
こほうぎこなたが自己紹介した。
「動物にとりついて支配してしまう宇宙植物なんです。犬からコイツに乗り換えました」
「そうなんですか……」
タイロンが呆気にとられる。
「でも……植物なら物体ではなく、生物だと思うんですが……」
謎の物体こほうぎは顔を歪め、言った。
「ブル・シット!」