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こほうぎの部屋
床に魔法陣の描かれた部屋だ。
ジャコウの匂いがする。
ちなみにジャコウとは、雄のジャコウジカの腹部にある香嚢(こうのう/ジャコウ腺)から得られる分泌物を乾燥したものである。主に香料や薬の原料として用いられるそうであるが、作者はそれがどんな匂いなのか、嗅いだこともない。
「ミヒ」
怪しげな三角頭巾をかぶったこほうぎこなたが言った。
「ミヒ、ミヒ、ミヒ……」
「お姉ちゃん!」
上の妹のこほうぎそなたが傍らで声を上げた。
「何を召喚しようとしているの!?」
下の妹のこほうぎどなたも声を上げた。
「どなた?」
こほうぎこなたは言った。
「ミヒ」
すると魔法陣の中央から煙が上がり、何かが召喚された。
ぼーん!
そなたが叫ぶ。
「ああっ!?」
どなたも叫ぶ。
「どなた!?」
召喚されたものは──
ミヒらぬ女性だった。
女性は現れるなり、赤いパーマを揺らし、豹柄のババシャツも揺らし、厚化粧を罅割らせ、言った。
「ミヒ!」