賢愚の彼岸
「ねえ、賢人」
五宝木さんが言った。
「賢人だってば」
僕はツッコんだ。
屋上で一緒に並んで、壁にもたれてお弁当。母さんの作ったやつだけどな。早く彼女の手作り弁当が食べたいよう。
「今度の日曜日、テクニックに行きましょう」
「ピクニックじゃなくて?」
「ペットバトルのお茶を持って行きましょう」
「ペットボトル、ね。闘わない、闘わない」
「天気が良ければいいわね」
「どうしたら天気をあまっきに言い間違えられるんだよ」
「お弁当、作って来るからね」
「さくってくる、ってどんなだよ!? あれ……? でも……」
お弁当、作ってくれるんだ?
初めての彼女の、初めての、手作り弁当、か……。
いいな……。
テクニック、ぜひ行きたいな……。
「うん、行こうよ。どこの山へ行こうかな」
僕が言うと、五宝木さんは即答した。
「テクニックが必要といえば、やはりアルプスでしょう」
「それはピクニックじゃなくて本格的な登山って言わない!?」
「乗り越えてこそ強くなれる山もあるわ」
「乗り越えるつもりないから! のんびりお弁当食べたいから!」
「ピアニストが何を弱気なことを言ってるのよ」
「アルピニストでもないし、かっけでもないし!」
「あなた、いつも私の言葉にゴミ出ししてくれて、ムカつくわね」
「ダメ出しじゃないよ! ツッコミ入れてるんだよ!」
「正しいことなんてないのよ! 私は正しいわ!」
「使い方間違ってるよ! それに後半矛盾してる!」
「鍵ーーーッ!」
「それを言うなら『キーーーッ!』だろ!」
こうして僕と五宝木さんは、別れることになったのだった。