百万年の孤独
俺の名はコホギレリャーノ・ブエンコナータ。
ちょっとこの世に産まれるのが早すぎたようだ。
人類が誕生するより百万年も早く産まれてしまった。
俺は川沿いに道路を作り、町を建設した。
しかしそこに住んでくれるのはチンパンジーとかオランウータンとかの祖先ばっかりだ。
会話をしても通じないし、せっかく作った町を破壊しまくってくれる。
俺は言葉の通じる人類が生まれてくるのを待った。
その間にいくつものチンパンやウータンが死んで行った。
待ち続けて百万年ぐらい経った頃だ。
ふと気がつくと俺が作った町の、誰も住んでいないはずの家の裏庭に、真っ白なシーツが干してある。
この世にまだ存在しない洗濯用洗剤で洗ったようなシーツだった。
「誰かいますか?」
俺は期待を込めてそこに声を投げた。
「もしかして人類ですか?」
俺の声が飛ばしたように、白いシーツはブワサァーッ!とめくれると、舞い上がり、高い空へと飛んで行った。
マジック・リアリズムだな、と思いながら、呆然と俺が見つめ続けていると、それはやがて戻って来た。
シーツに巻きついて、かわいい猿人の女の子が降って来た。
「きゃうう、」と、その娘は言った。
ダメだ。猿人じゃまだ言葉が通じないようだ。
せめてクロマニヨンぐらいでないと。
猿人の女の子は、大浴場のガラスの天井を突き破ると、湯の中へ突っ込んだ。
様子をゆっくり見に行ってみると、猿人の女の子は湯船にプカプカ浮かんで死んでいた。
まるでライフル銃で撃ち落とされたように。
俺は言葉を失った。
俺はそれからさらに五百万年生きたが、死ぬまで一言も喋らなかった。
言葉を失ったからである。