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こほうぎこなたはかく語りき  作者: フリードリヒ・ハラヘルム・タダノバカ
新6章 世界名作文学大全集
55/213

恥族の巣

 私は42歳のおっさんであり、恥族である。

 恥族とは何か? 働かずに優雅に生きて行くことを仕事とする身分の者。つまりはニートのようなものである。

 我々の合言葉は『働いたら負け』であり、700年に渡ってそれを貫いて来た。

 何の自己批判もなく、我々の先祖は食っちゃ寝の生活を続けて来たのである。


 パリで遊び呆けていた妻が死んだとの報せを受け、私はペテルブルクでの生活を引き払い、鳥取県の倉吉市に帰って来た。

 久しぶりに帰った故郷はそこそこ変わっていたが、ド田舎だということには何の変わりもなかった。サンピアの跡地が大きな業務用スーパーに変わっていたぐらいだ。あとはパータンしかないことに何も変わりはなかった。あとあの牛骨ラーメン屋が全国チェーン展開したぐらいか。

 私は先祖が残した広大な土地を貸して巨大病院を建てさせ、院長先生から莫大な土地代を取っていた。ゆえに一生遊んでいられるのである。


 その土地の片隅に作ってある公園に、少女がこっそり棲み着いていた。

 彼女の名前はコナータ。19歳の、美しい、心の底まで美しい、金光教信者の娘であった。

 彼女は芸術を愛し、歌を愛し、働くことを憎んでいた。つまり彼女も恥族であった。

 23歳下のコナータに、私はいけない愛を囁いた。コナータに気に入られるためなら金光教に入信することなど何でもなかった。

 私と彼女は毎日、花とりどりのとっとり花回廊の庭で遊んだ。


「私は大宇宙神さまの愛を信じますの」

 コナータはその美しい唇で言った。

「ふふふ。大宇宙神さまのお力を全身に浴びた私を捕まえてごらんなさいまし!」


「待てぇ〜! アハハ!」

「捕まえてごらんなさいまし! ウフフ!」

「コイツぅ〜! ゲヘヘ!」

「捕まえたら決してお離しにならないで! イヒヒ!」


 抜き打ちで妻がパリから帰って来た。死んだというのはいつものジョークだったのだ。


「あ〜ら、あなた。浮気ですの? 自分の娘ぐらいの小娘と?」

「いや、待って。妻よ。許して」

「いいんですのよ? だったら私も素敵なパリジャンと浮気をいたしますので」

「まぁ、落ち着いてカラオケでも行かないか」


 妻とコナータと3人でカラオケに行った。

 コナータが美しい声でチャイコフスキーの歌曲を披露すると、妻はあまりの感動に泣き出してしまった。


「シャルマン……! シャルマン……!」

 そんなニワカのパリ語らしき優雅な言葉で『お可愛い』を連発し、コナータと仲良くなってくれた。

 仲良くなりすぎだ。2人はデキてしまい、手を繋いで東京へ引っ越して行ってしまった。


 一人残された私は、何も生き甲斐をなくしてしまった。


 自分の先祖が残した広大な土地を呆然と見つめながら、何か暇つぶしはないかと考えた。


「よし! 畑を耕して、西瓜を作ろう!」


 そして私は恥族ではなくなり、健全な農家となったのである。


 倉吉の冬は、寒い。


ツルゲーネフ『貴族の巣』を読んだことがある人、挙手!(。・・。)/

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