変身!
ある朝、コホオーギ・コナタが気がかりなユメから目覚めると、かわいい虫さんになっていた。
「かわいい!」
鏡を見るなり呟いた。
「こんなかわいい虫さんがこの世にいたなんて!」
そこへ妹のコホオーギ・ソナタがノックもせずに入って来た。
「お姉ちゃん、朝ごはんだよ」
コナタが振り返る。
ソナタがそれを見る。
何も言わずにソナタは泡を吹いた。伐採された木のようにその場に倒れる。
「失礼な! こんなかわいい虫さんを見て失神するなんて!」
食卓では下宿人の金持ちの息子が2人、札束で父の頬をぴしぴし叩きながら豪勢な朝ごはんを食べていた。
そこへコナタがうぞうぞと這いながら出て行く。
「見て見て! かわいい虫さんだよ」
そう言いながらコナタが姿を見せると、2人の金持ちの息子の下宿人は、父に聞いた。
「ペットですか?」
「違います」
「じゃあ不衛生ですか?」
「そうですね」
「こんな虫が出る館だなんて知らなかった! ラーメンの中に親指が入ってるほうがまだましだ!」
そう言って2人とも、激怒しながら、2年間契約の違約金をきちんと払って退去して行ってしまった。
「なんで……?」
コナタは呆然とした。
「あたし……かわいくない……?」
「どこから入り込んだ! この巨大毒虫めが!」
父がそう言いながら二十世紀梨を思いきり投げつける。
華麗にそれをキャッチすると、それをシャクリと齧りながら、かわいく2つに割れたしっぽをフリフリしながら、コナタは表へと繰り出した。
「見てなさい。絶対に、世にあたしがかわいいことを知らしめてやる!」
時は2050年。山陰新幹線がようやく開通し、新たな時代が幕を開ける直前のことであった。