ツッコミ賢人
僕の名前は土込賢人。何の特徴も特にない、クラスの中でも目立たない、平均的男子だ。
僕はクラスに気になる女子がいる。あっ! そ、そういう意味での『気になる』じゃないんだからね!
彼女は単純に、僕の性癖をくすぐるんだ。あっ! せ、性癖っていっても、そっちの意味じゃないんだからね!
彼女の名前は『五宝木こなた』。学校1……いや、間違いなく日本一の『言い間違い女王』だ。
僕はいつでも彼女にツッコみたくてしょうがないんだ。
……。
あっ! 決して変な意味でじゃないからね!
「おはよう、五宝木さん」
朝、教室に入って来た彼女に僕は声を掛けた。
彼女は猫耳みたいな金髪をキラキラ輝かせながら、怪訝そうな顔をして言った。
「誰?」
「いやだなあ。僕ですよ、僕。ツッコミキャラの土込、土込賢人ですよ。ひどいなあ、いくら地味を絵に描いたようなメガネ男子だからって、クラスメイトの顔と名前ぐらい覚えてくださいよ……」
「そうじゃなくて」
五宝木さんは、こう言った。
「五宝木さんって誰?」
「君だろおおおお!!」
僕は思わずツッコんだ。
「それに読み方は『いつぽんぎ』じゃなくて『こほうぎ』ぃぃぃイ!」
「私の名前はこほうぎこなた」
彼女は何も疑わない無表情で、言った。
「全部ひらがなだわ」
まさか……。
まさか彼女は知らないというのであろうか? 自分の名前に漢字があるということに?
一応自分を疑って彼女の鞄を見ると、かわいく揺れるネームプレートに『五宝木こなた』と書いてあった。
「人間は」
彼女は言った。
「バカであるべきなのだ」
「そんなことないよ!」
僕は彼女を弁護した。
「君はバカなんかじゃない!」
「賢こくきねんび」
「建国記念日?」
「あなたの名前」
「僕は土込賢人だってば! 賢しか合ってないよ!」
「賢……賢者モード」
「女子高生がそういうこと言うのやめて!」
「あっ! 遠藤賢司さん」
「どこどこ? ……って、賢かよ! 賢からの連想かよ!?」
「何を言ってるの?」
「君がだよ!」
「1+1がいつも3だとは限らないわ」
「2だよ! あるいは田んぼの田!」
「もっと自由に暴れたっていいじゃない!」
「既に自由すぎるよ! 何言ってんだ!」
こうして僕と五宝木さんは、付き合うこととなったのだった。