眠れる森野美女
昔々、今から三ヶ月ほど前のお話です。
あるところに森野美女という名のOLがおりました。
それはそれは、名前ほどには美しくもなく、平凡な30歳の疲れた顔をした女でした。
疲れを取るにはとにかく睡眠です。
なのに、森野は毎晩毎晩、不眠症に苦しんでおりました。
「ああ……、どこからか王子様が現れて、あたしを眠らせてはくれないかしら」
そんなたわけたことを思っていたある日、こほうぎこなたという名の魔女に出会いました。
場所は電器店の店内。マッサージチェアのコーナーでした。
「おねえさんは眠れなくて苦しんでいるのだね?」
こほうぎこなたは魔女の口調で言いました。
ちなみに『おねえさん』は『おまえさん』の発音で読んでほしい。
森野がうなずくと、こほうぎこなたはヒッヒッヒと笑い、テレビショッピングを始めました。
「夜、眠れないとお悩みのあなた。このチョー・スリーパーがあなたを眠りの世界に誘ってくれます。
使い方は簡単。いつもお使いのマットレスや布団の上に敷くだけ!
魔法の力があなたを心地よい眠りに誘ってくれることでしょう。
通常価格39万6千円のところ、今ならなんと! 9割引きの12万6千5百9十円!
この機械を逃す手は……」
「買った!」
森野はまんまとそれを買ったのです。
チョー・スリーパーの効果は絶大なものでした。
さすがは毎日のようにテレビショッピングで紹介されているだけのことはあります。
森野はたやすく安眠に入ると、それから3年間、起きませんでした。
アパートの大家さんが心配して(森野の心配ではなく、家賃の心配でした)警察を呼びました。
警察はベッドですやすや眠る森野を確認すると、何事もなしと言って帰って行きました。
それから3年後──
王子様がやって来ました。
しかし、よく見ると……
それは玉子様でした。
玉子様は王子製紙で作られたティッシュペーパーを1枚、引き抜くと……
森野美女の鼻に突っ込みました。
「お前にはこれがお似合いだ。喰らえ!」
鼻にそんなものを突っ込まれたら、さすがに起きるしかありませんでした。
そして森野は仕方なく起き、会社に行きましたが、
とっくに辞職扱いにされていました。
こうして12万6千5百9十円を手に入れたこほうぎこなたは幸せになったのです。
12万6千5百9十円を使い切るのは1日もあればじゅうぶんでした。
すべてめでたし、めでたし。
ごじはありません(*´ω`*)