あたしとこなっちゃん
ハーパンのお尻を砂で汚しながら、校庭に引かれたトラックを走る子たちを眺めていた。
あたしの名前は水星サツキ。高校二年生だ。髪型はショートだけど前髪が目にかかるので白い鉢巻で落ちて来ないように留めている。モテるほうではないが、自分では結構イケてるつもりでいる。1人が好きオーラを発してしまっているようで、そのせいでカレシが出来ないでいるのだ。
「誰に話してるの?」
後ろからこなっちゃんが不思議そうな顔で聞いて来た。
「いいえ私の名前はこほうぎこなた。こなっちゃんではないわ。ところで運動会の真っ最中に虚空に向かってあなたは何を話してるの?」
「ナレーションしてるんだから黙ってよ」
あたしは邪魔なハエを追い払うように、言った。
「ハエだなんてひどい」
「声に出してないとこに突っ込まないでよ! 大体これ、地の文なんだから! あんたには聞こえてないことになってるんだから! 聞こえたりしないでよ!」
「地の文って何よ! 聞いたこともないわ!」
「耳で聴いた言葉をわざわざ書き文字に置き換えて読み違いしないでよ! あんたのそういうとこ嫌い!」
「あたしもあんた嫌いだから別に構わないけど?」
言い争い、傷つけ合って成長して行く。涙も笑顔も未来の糧となる。あたし達は今、青春真っ只中だ。
「あ。うまく受け流した。キモっ(笑)」
紹介が遅れたが、このうるさい女は五宝木こなた。
「違うわ。私はそんな名前じゃないわ。こほうぎこなた。全部ぴらがなよ」
金色の髪を頭の上でネコ耳のようなお団子にしている。
「お団子じゃない。これ、本物のネコ耳なんだから」
そう言うとこなっちゃんは頭の上のお団子をピッコンピッコン動かした、レーダーのように。何これ。キモっ。
「だからあなたは誰に向かって喋ってるのよ、殺気?」
あたしの名前は殺気じゃない。水星サツキだ。
でも確かにそう言われてみると芽生えてきた。