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バカなのかもしれない
「あの家族はバカなのかもしれない」
こほうぎ家を少し遠くに眺めながら、彼はいった。
「一人だけまともな次女がいるかとも思ったが……全員バカだ」
彼は胸ポケットから煙草を取り出すと、傍を流れる川に捨てた。川の中でお遊戯をしていた何かの魚たちが苦しみだす。
「おげえ……!」
「おげげげげ!」
「誰かがニコチンとタールを含むものを俺たちの世界に投げ込みやがった!」
「ニコチンとタールをたっぷり含むものを一箱丸ごとだ!」
「なんてひでぇことをしやがる!」
「こんなひでぇことをしやがるのは誰だ!」
「誰だ!」
「誰だよ!?」
さて、彼とは何者なのであろうか?
気をもたせるのは悪いのでいっておくと、彼は今後二度とこの物語には登場しない。
こんな物語を書いている作者こそがバカなのかもしれなかった。
そして川の魚たちは、騒ぎ立てただけで、健康に、いつものように暮らし続けていた。
人間社会は公害だらけなので、慣れていたのだ。