女教師ドリル
こほうぎ家の母、こほうぎドリルは小学校の国語教師である。
彼女は生徒たちを鍛えるため、漢字は必ず読み間違える。
生徒たちの自発的な学習能力を鍛えるためである。
「萩原朔太郎『月に吠える』より『竹』を朗読します」
そう言うと、ノーブルな声で、詩の朗読をはじめる。
『光る地面に竹が生え、
青竹が生え、
地下には竹の根が生え、
根がしだいにほそらみ、
根の先より繊毛が生え、
かすかにけぶる繊毛が生え、
かすかにふるえ。……
安心してください。著作権はキレてますよ』
「先生!」
馬込くんが手を挙げた。
『込』は読み方がひとつしかない漢字であった。
ドリル先生はどう読み違えるのであろうか?
「はい、馬込くん」
適当に読み違えた。
「小峠くんがさっきから隠れておちんちんをいじってます」
『峠』も読み方がひとつしかない漢字である。
ドリル先生はどう叱るのであろうか?
「小峠くん、続けて?」
漢字はバラし、小峠くんの行為はユルした。
「じゃあ、榊くん、続きを読んでみて」
これも読み方がひとつしかない榊くんは、先手を打たれて破顔した。
榊くんが先生から引き継いで朗読している間、一くんが何やら騒がしい。
先生に自分の名前が読み違えられるかどうか、友達とトトカルチョをしているようだ。
「一くん」
ドリル先生はあっさりと、ふつうの読み違いをした。
「先生に読み間違えてみろと思う漢字があればドント来てみなさい」
こほうぎドリルは、こう言った。