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意味がわからないのは自由
こほうぎこなたは帰り道、風船おじさんに出会った。
「あなたは誰?」
「風船おじさんさ」
にこにこしながら手に無数の風船を持つそのおじさんに、こほうぎこなたは何かを感じた。胸に大きな穴が空いているのを感じたのだ。新聞を読みながら公園のベンチに座っていた山高帽の老紳士が立ち上がり、戦闘開始を待つ二人に、言った。
「Fight」
まずはこほうぎこなたが仕掛けた。様子を窺う下段蹴りで相手のよろめきを狙う。風船おじさんは笑いながら空へと舞い上がった。
「バカね」
こほうぎこなたはニヤリと笑った。
「おやすみなさい」
笑っただけだった。
風船おじさんは高らかに笑いながら、空の藻屑へと消えていった。
意味がわからないというのは、かくも自由なものなのである。
高い秋の空のように、ぼくは恋心を解き放ったのだった。