兄妹 De デート
「なあ、どなた」
「あなたはどなた?」
「俺だよオレオレ!」
「ど……、どなた?」
「忘れたのかよ!? おまえの兄ちゃんの『こほうぎあなた』だよ!」
「ど、どなた〜……?」
「最初に名前呼んでくれてたじゃん! 『あなたはどなた?』って。正しくは『あなたはあなた』だよ! いい加減覚えろよな!」
「ど……な……た?」
「ま、いいや。今日は二人で思いっきり楽しもうぜ。ほら、ドーナツ食えよ」
「どーなつ?」
「うまいな、もぐもぐ。ほら俺のもやるからどなたのもちょっとくれよ」
「……どなた?」
「お兄ちゃんだよ! おまえの! いい加減覚えろって! 妹!」
「ど、どなった!」
「そなた姉ちゃんがさ〜、犬買ってもらったんだって。どんな犬かな。楽しみだよな」
「どんなだ?」
「おっ。やっと会話が通じたな? なんでもネズミ犬って犬種らしいぞ。どんなんだ、それ?」
「どんなんだ?」
「ところで俺の名前は? 言ってみ?」
「どなた?」
「はあ〜……(ため息)」
「ど……どうなった?」
「……俺、姉ちゃん2人には存在無視されてるし、母ちゃんと父ちゃんからはなんか認知されてないし……、生きてる気がしねぇよ」
「どなた……」
「だからさ、せめて唯一の妹のおまえだけはさ、俺の存在承認してくれよ。俺、今、承認欲求のかたまりだよ」
「どなた?」
「うわーーーっ!(突然立ち上がる)」
「どーなった!?」
「死んでやる! 消えてやる!(駆け出す)」
「どなた……」
こほうぎあなたは人混みの中へ駆け出すと、消えていった。こほうぎどなたは追わなかった。本気で、心の底から、あれは誰だっけ? と思っていた。