下野くんの葛藤
僕の名前は下野景希。中学三年生だ。
僕らは来年高校受験を控えている。恋愛なんかに心を乱されている暇はない。
それでもどうしようもなく僕らは思春期でもある。異性のことが気になるのはどうしようもない。
僕にも気になる女の子がいる。
クラス委員長のこほうぎそなたさん。
彼女は品行方正で、勉強もよく出来て、そしてなんといってもかわいい。
どうしても僕の目は、彼女のことを追ってしまう。
授業中、前のほうの席に座る彼女の後ろ姿を。
体育の授業中、ささやかに胸を揺らして走る彼女の横顔を。
下校時、校門のところで誰かを待っている彼女の思い詰めたような表情を。
誰を待っているのだろう。女の子の友達を待つのに、あんな思い詰めた表情をするものだろうか。
まさか……彼氏?
いやいやまさか。品行方正で高校受験も控える彼女に限って、そんなうわついたものなどいるはずがないだろう。
僕は彼女を見てるだけでいい。中学時代に好きだった女の子がいたという、そんな思い出さえ出来ればいい。
彼女の香りを感じながら、横を通り過ぎよう。そんなつもりで校門へと歩く僕を、彼女はまっすぐ見つめていた。
待ち伏せされてるのは、僕だった。
彼女は僕に、言った。
「わたしと駆け落ちして」