最強に噛み合わないものたち
「失礼。よござんすか?」
玉葱のような髪型をした男だ。女教師の後ろをずっと尾けていたが、遂に声をかけた。
「こほうぎ一族のマザー、こほうぎドリル殿とお見受けいたします」
声をかけられた女教師は、嬉しそうに、踊るように振り返った。
メリー・ポピンズとかサウンド・オブ・ミュージックとか、そんな感じの女性だった。
「あら! あなたの頭、面白いわね!」
女教師は、人智を超える叡智を感じさせるほどに理智的な声で、那智黒飴を口の中でコロコロいわせながら、言った。
「まるで玉葱みたい。フフフ……、如何にも私が『こほうぎ家の首領』、こほうぎドリルよ」
「やはり」
「あなたは? お名前は?」
すると男は仁義を切り、名乗った。
「手前、元乃木坂46、ユニセフ親善大使も務めます極道、しろやなぎのテツ、と申します」
楠楠楠と、こほうぎドリルは笑った。
「あなた、面白い喋り方、なさるのね」
「姐さんほどではござんせん」
「それで?」
にこやかに、こほうぎドリルは聞いた。
「私に何の御用?」
テツが懐に手を入れた。
ドリルは日傘の柄を持つ手に力を入れた。
テツが素早く取り出したものは、色紙であった。
「姐さんのファンなんでごさんす。サインをいただけますか」
「あら、可愛い」
「そして、出来るなら、手前の部屋で対談したいでごんす」
女声の陽気なハミングがどこからか聞こえてきた。