こほうぎどなた最後の戦い
こほうぎこなたが歌い出した。
「ぢゃー、ららーん♪」
「ぢゃぢゃっ! ぢゃーぢゃぢゃぢゃ!」
「ぢゃー、ららーん♪」
こほうぎどなたも歌った。
「どなたなー?」
こほうぎこなたは邪悪な目をして妹を見る。
父も消した。母も消した。上の妹も消した。
残る一人、この三女こほうぎどなたを消せば、世界は自分のものになる。知らんけど。
そんなこほうぎこなたの野望など知る術もなく、こほうぎどなたは歌い続けていた。
「どーなたー」
強敵だ、とこなたは思った。
暖簾に腕押し、豆腐に釘……。どんな攻撃も「どなた?」の一言でぬるりとかわしてしまう妹は、こなたの天敵だとさえ思えた。
今まで通りではいけない。
どなたに流されないようにしなければ……。
そこで、こなたは、どなたに聞いてみた。
「あんた、どなた?」
「どなた?」
「だから、あんたはどなた? って聞いてるのよ。わたしが誰かなんて、どうでもいいことだわ」
「どなた? どなた?」
「だからどなたはどなたよ?」
「どなた……」
どなたは、混乱した。
「どなたはどなた? どなたって……どな、どな……」
『チャンス!』
こほうぎこなたはまた歌いはじめた。
さっきはレッド・ツェッペリンの『アキレス最後の戦い』のイントロのギター部分を歌ったが、今度は違う。
もちろん、ドナ・ドナだ。
「どなどなー!?」
こほうぎどなたの娘、こほうぎどなた?が、荷馬車に揺られて売られて行く。
「どなた?ー!? どな、どなどなどなた?ーーー!?」
どなたは夕陽に向かって駆け出して行った。
こうしてこほうぎどなたは終末した。
「やった……!」
こほうぎこなたは拳を振り上げた。
「これで世界はわたしのものだ!」