こほうぎソナタ最終楽章
こほうぎ家の次女そなたの特技はピアノ演奏である。
音符の詰まった技巧的な曲よりも、叙情的な曲をしっとりと聴かせることを得意としている。
長女のこなたと二人、森を散歩していると、白いピアノが捨てられているのを見つけた。
「あら? こんなところにピアノが……」
そう言うと、そなたは子鹿のように駆け寄った。
それを見ながら、こなたが言った。
「すきやきコーラが飲みたいわ」
そなたがピアノの蓋を上げ、鍵盤に指を乗せると、C3の音が森に美しく響いた。
「生きてる……! 生きてるわ、このピアノ! お姉ちゃん」
こなたはにっこりと微笑み、答えた。
「死ねばいいのに」
そなたは立ったまま、白いピアノでベートーヴェンの『悲愴第2楽章』をゆっくりと弾きはじめた。
森の木の上からリスが降りてきて、聴き惚れるように並んで立った。
こなたはそれを捕まえると、一匹ずつチタタプして食べ始めた。
森のピアノを弾いているうちに、そなたは見知らぬ場所にいた。
「あれ……?」
一人だった。
周囲の森も消えており、そこは真っ白な雪原の中で、自分とピアノだけがあった。
「……お姉ちゃん?」
こなたはリスを食べ終えると、ゲップをし、一人ほくそえんだ。
「こほうぎそなた、終末したわ」