楓姉と僕
病院のロビーでばったり楓姉に会った。
会うのは一年振りぐらいだろうか。とにかく久し振りだった。
「あら。たっくんじゃない」
僕が離れた場所からその横顔を見つめていると、楓姉のほうから気づいて声をかけてくれた。
相変わらず綺麗だ。
頬にくっついた黒い髪が色っぽい。
結婚すると聞いた時に僕の胸に空いた穴は、なんとか塞がっていた。でも、こうやって顔を見ると、やはりそれが疼く。
「どうして病院に? もしかして、肥満?」
さすが楓姉だ。僕のことをよくわかっている。
その通り、僕は太りすぎを抑える薬を貰いに病院に来ていた。それが貰えるのはここ、産婦人科だけなのだ。
男が一人で来るのは恥ずかしい場所だけど、命にかかわる症状だったから、来ないわけに行かないのだ。
その時、近くにいた金髪の女子高生が、僕に聞こえる声で言った。
「ひまだから産婦人科に来る男の子ってどうかと思う」
ひまじゃない。何を聞き間違えてるんだこの女は。肥満だ、肥満。肥満は命にかかわる重大な病気のデパートなんだぞ。
「ひまわりだから産婦人科に来るミスター・ひまわりだったら意味わかるけどさ」
なんだ、それは? ミスター・ひまわりって誰だ? 聞いたこともないけど流行ってるのか?
女子高生がすっくと立ち上がり、唐突に自己紹介をしてきた。
「わたしの名前はこほうぎこなた」
聞いてないし、どうでもいいんだが……
「隣にいるのは妹のこほうぎどなた」
やめてくれ! 僕は大好きな楓姉とお話がした
「どなたが抱いてるのはどなたの娘のこほうぎどなた?」
なんのことだ!?
「中学生が子供を産んではまずいから、楓姉に産み直してもらったの」
えええ!?
「にっこり」
そう言って楓姉が笑った。