1.
「いきなりのことで申し訳ないが、君との婚約は破棄する」
侯爵令嬢であるアリス・ターナーは、婚約者であるライアン第二王子に婚約破棄を言い渡された。
「さらに、君をこの国から追放する」
しかも、この国からも出て行くようにも言われた。
しかし、なんだか彼の様子がおかしい。
「あの、いきなりのことでよくわからないのですが、どうして婚約破棄をしなければいけないのですか? それに、この国から追放なんてあんまりです」
「そ……、それは、えっと……、僕は君の顔を二度と見たくないからだ。だから、この国から追放する」
彼は言葉を詰まらせながら言った。
普通こういう場面ではもっと堂々とすると思うけれど。
「それに、ライアン王子、あなたに私を追放する権限はないはずです。その権限を持っているのは、国王陛下だけなのではないですか?」
「ああ、通常の場合はそうだ。しかし、陛下が病気などで執務を執行できない場合に限り、代わりに僕が権限を行使することができる」
言われてみたら、そんな決まりがあった気がする。
もっと彼に言いたいことはあった。
しかし、決定事項に逆らうことはできず、アリスは国を出ることになった。
「あぁ、なんでこんなことになったんだろう……」
アリスは王都から馬車に乗って移動した。
そして、町から離れたところで馬車から降ろされた。
ここからは歩いて行けということだ。
アリスは歩いて国境を超えた。
それを見届けると、馬車は去っていった。
「ライアン王子、いったい、どうして……」
ライアン王子とはいい関係を築けていただけに、ショックは大きかった。
きっかけは政略結婚のためだが、アリスはライアン王子のことを愛していたし、彼も愛してくれていると思っていた。
大きくため息をついていると、うしろから誰かが大きな声でアリスの名を呼んでいることに気付いた。
振り返ると、そこにいたのは馬車に乗ったライアン王子だった。
「おーい、アリス! 待ってくれぇ!」
意味が分からなかった。
どうして、婚約破棄して追放した相手を追ってきているのだろう。
もしかして、何か理由があるのだろうか……。
さっきの婚約破棄と追放には、裏に知られざる理由があるのかもしれない。
「大事な話があるんだ! 聞いてくれ!」
どんどんこちらに近づいてくるライアン王子。
うーん、状況がまったく呑み込めない。
彼の話を聞くべきなのだろうか。
それとも、これは何かの罠なのだろうか。
アリスの三メートル手前で、馬車が止まった。
ライアン王子は馬車から降りようとしている。
それを見てアリスは……、とりあえず全力で逃げた。