続 女体インゴット 仏像になった金野香織
私は、また、再度、金野香織に会いたいと思った。
ささいなことでけんかして、そのまま今生の別れを迎えるのも耐えられない。
仏様ならば、お百度参りをすれば、願いを叶えてくれるのでは、、、、
そう思って、香織仏像にお参りをすることにした。
なんとか叔父の相続関係者を言いくるめて、私が、叔父の家を相続し、香織仏像ごと相続することができた。そのかわり、株だの、銀行預金だの、多くは、関係者の手に渡ってしまった。ただ、こちらとしては、金貨をちょろまかして手に入れたので、トータルでみると、そんなに損はしていないと思うのだが、、、
ついでに、いっておくと、叔父の家は、ちょっと広めのワンルームマンションだ。投資用の不動産物件を多数持っていたが、どうやらその投資用不動産物件の空き室に自ら住むことにしたようだった。まあ、変わり者の叔父らしいといえば叔父らしいが。貯金、株、金貨集め、ダッチワイフ遊びが趣味といえば趣味なんだろう。家への興味はなかったということなんだろう。
私はといえば、香織仏像にとりつかれ、叔父から相続したワンルームマンションに、ちょろまかした金貨、少々の現金(少々といっても、自分の残りの人生を遊んで暮らせるぐらいの)を手に入れたわけだ。
香織仏像に、一週間ほど祈り続けたところ、訪問者があった。
訪問者は、遺品博物館の学芸員で、山本・K・ショーンと名乗った。一時期、活躍した、ショーンKのように、ハーフの、堀の深い顔立ちではなくて、白髪交じりの中肉中背の50代後半の男だった。
遺品博物館といえば、太田忠司さんの小説に出てくるので、知らないわけではなかったが、ほんとうにあるのだろうか、、、、とにかく、山本学芸員の話を聞くことにした。
遺品博物館とは、その名のとおり遺品を収蔵する博物館、古今東西、さまざまな遺品を蒐集している。選定基準は、諸事情によりお話できない。ただひとつ、いえることといえば、その方の人生において重要な物語に関わるものを選ぶことになっている。遺品は、ときに、生者より雄弁である。
まずは、遺品博物館の説明だ。「遺品博物館」の読者ならいつもでてくるあのくだりだ。ただ違うのは、小説に出てくるのは、吉田・T・吉夫という年齢不詳の学芸員だが、こちらは、山本・K・ショーンだ。
まあ、博物館というのだから、学芸員が複数いてもおかしくはないのだろうが。
この山本学芸員のいうには、生前の叔父から遺品博物館に寄贈の件を承っている。遺言書もある。とのことだが、そんなことなら、もっと前にいえよ。遺族の関係者のなかで、あれこれ苦労した、こちらの身にもなってくれと。
「金塊はどこにありますか。」山本は言った。
正直に、これまでの経緯を話すかどうかと迷ったが、なんだかこの男、信用できないし、そもそも吉田・T・吉夫でもないし。
「知らないが、、」と、とぼける。
「この金の仏像はなんですか?」
「これはおれのものだ。」
「どこで手に入れたのですか?」
「そんなことは、お前にいう必要はない」
押し問答のあげく、山本を追い返した。「帰らんと、不退去罪で訴えるぞ」と。
いつまで胡麻かし続けられるかは、わからないというのが正直なところだ。
この香織仏像についての、情報は欲しいが、仏像を遺品博物館にとられてしまったら、二度と香織には会えないし。今日のところは、追い返して、正解としよう。
しばらく後、お百度参りも終えて、そろそろなにか瑞雲がないかと期待していたところ、今度は、喪黒・A・藤夫と名乗る遺品博物館の学芸員がやってきた。藤子・A・不二夫の笑うセールスマンそっくりのいでたち、恰好だ。名前も、喪黒というのだから、まんまじゃないか。
喪黒は、まずは、お詫びということで。
山本・K・ショーンは、あまりにも遺族たちとの間、トラブルが多い。そこで、あれこれ調査をしたところ、経歴、学歴詐称、おまけに、学芸員資格すら持っていないということだった。そこで、山本を懲戒免職にするとともに、遺品博物館の学芸員が手分けして、山本の担当していたところに、お詫び行脚にまわっているとのことだった。
山本と違って、この喪黒というのは、実に、言葉巧みだ。そのうち、ドーンとやるかもしれないが、山本が馘首になったときいて油断してか、喪黒の誘導にやられてか、ついついしゃべってしまった。金塊を抱きしめると女になったこと。その女とエッチを楽しむ代償として、金貨をやっていたこと。女は、金貨を食べること。女とけんかしてしばらく金貨をやらなかったら、仏像になってしまったこと。仏像になったけど、私は来る日も来る日も、もう100日以上、お祈りをして女に戻ってきてほしいことまで、白状してしまった。
まあ仕方がないか。相手が、喪黒じゃあ、どこまでも逃げ切れるとは思えなかったし。こいつは、喪黒福造(悪い奴)なのか、それとも弟の福二郎なのかで、オレの命運は決まるかもしれない。
とりあえず、オレは、覚悟をきめて、なんとか、この女、香織と名乗るこの女と、よりを戻したいこと。こんなひょんな出会いから、男と女の中になって、なんだかんだと楽しかったこと、香織ほど、オレのエロチックな要求をきちんと満たしてくれる女はいなかったこと、今、コロナが蔓延していて、そうそう風俗店にもいけないこと、右手が恋人ではつまらないこと、これが、オレの心の隙間なんだということをぶちまけてしまった。
しまったとは、思ったが、こんな不満が心の中にあっては、つらいばかりだと。祈っても、祈っても、報われないし、お百度しても現実は、変わらないことなどを洗いざらい、いってしまった。
喪黒は、なんと、「よろしい。わたしにお任せください。」と。「どうする気だ?」
「香織さんに会わせてあげますよ。ただし、香織さんとえっちしてはいけませんよ。」と
「えっちするとどうなるってんだ?」
「おほほ。それは秘密です。」
「えっちしないのなら、香織の意味がないじゃないか。」
「簡単なことですよ。入れなきゃいいんですよ。」
「要するに、性交はいかんが、そのほかはいいんだな。」
「そのとおりです。エッチしてはいけないファッション・ヘルスだと思ってください。」
こいつは、ほんとうにうまい。こちらの心の隙間につけいってくる。
確かに、ファッション・ヘルスでは、えっちはできない決まりになっている。やると、五十万の罰金ということになっていたりする。
このままでは、香織には会えない。悶々とするよりは、喪黒のいうことを聞くほかない。
喪黒いわく、「目をつぶれ。『どーん』といったら、目を開けろ。」と
いわれたとおりにした。
「どーん。ZOON!」
「香織、お前に会いたかった。」
「もう終わったことだし、、、」
「そんなこというなよ。オレは、どれだけお前に会いたかったことか。毎日、毎日、香織仏像にお祈りをして、100回以上もお参りをして。どんなにどんなにお前のことをおもっていたことか。清少納言を思いやる、深草の少将のようなものだと」
「はあ?嘘おっしゃい。」
「嘘なわけないだろう。香織仏像として、見ていなかったのか?お前に会うために、喪黒さんという方と取引して」
「私、忙しいし、、、」
「そんなこというなよ。もうオレは、絶対にお前を手放すことはない。おまえのいない毎日がどれだけ、つまらない、色あせたものだったか。お前と過ごした思い出が忘れられないし、お前のことがどれだけ愛しいか。」
「ふーん。じゃあ、ちゃんとお金くれるんだよね。」
「もちろんだ。」
「じゃあ、金貨これまでの分、100枚くれる?」
「100枚だって?」
いかん、いかん、ここで嫌だと言ったら香織は消えてしまう。
「わかった。」
叔父の隠し財産から手当たり次第の金貨をかき集めるとなんとか100枚あった。
これで香織の機嫌がなおるのならお安い御用のように思えるが、金貨は、1枚20万円ほどなので、100枚となるとなんと2000万円だ。
香織がいなくて2000万円残るのと、
香織がいて、 2000万円無くなるのと
香織がいなくなって2000万円も無くなるのと
どれが良いのだ?
また、香織に飽きるかもしれない。
銭ゲバぶりにうんざりするかもしれない。
この女は、オレよりも多分、金を愛している、でも、オレは残念なことにこの女とよりを戻したいのだ。
今は確かに2000万円相当の金貨はあるが、次の2000万円のあてはない。
あれこれ考えていると判断できなくなる。
もし仮に明日、コロナに感染して死ぬかもしれないと思えてきた。そうなると、2000万円であれこれ悩むのがバカらしくなる。2000万円あろうがなかろうが、死んでしまったら使い道もないわけだ。
香織が痺れを切らしてきた。
「お金くれないのなら、もう会えないよ。」
「わかった。ここに金貨100枚ある。さっさとやることやろうぜ。」
どうやらHモードに入ってくれそうな感じだ。
「セックスがしたいんだ。」
とうとう言ってしまった。「オレはセックスがしたいんだ。」
「お前を失ってから今日の今日までセックスをしていなかった。精子を出すことはあったが、あくまでオナニーだ。」
もうあとは無我夢中だ。喪黒の忠告なんてどこかへ飛んでいってしまった。焦らされれば焦らされるほど、セックスへの要求が増すばかりだ。膣外射精はやめて中出しすることにした。もう二度と香織を抱くことはできない気がしたから。
喪黒の忠告は忘れたわけではない。頭の片隅にはある。だから、なんだというのだ。もうこれ以上、金貨はないし、このまま、また、香織が消えてしまっては、もう生きている気もしない。これまで香織の代わりになる女も見つけられなかったことだし。
「あなた、約束破りましたね。」
なんだか喪黒のお決まりの文句だ。
香織とは結合したままだ。
もう抜きたくなかったし、抜く必要もないかもしれない。
賢明な読者諸氏は、もう想像がついていると思うが、あえて記すとすれば、そのまま、オレと香織は一体になって、存在し、ある種の宗教で言う、ツインレイというらしいが、、、、
喪黒の意図通り、雌雄同体の金の仏像へと変化をとげ、遺留品博物館の逸品?一品となったわけだ。
香織への思いが、このようになったわけだし、金も尽きたし、
いったいぜんたい、いまどういう気分かだって?
光顔巍巍とだけ答えておこう。