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鏡越しのかくれんぼ。

作者: 菜千花

 真っ昼間で、クーラーがなきゃやってられないくらいの暑い日の休日。私の妹の“よっちゃん”はいなくなった。


「お姉ちゃ〜ん。みてみてー」


 そんなに広くはないけど、当時の私には自分の部屋があって、妹の“よっちゃん”には小さかったのもあるけど、自分の部屋がなかった。


 だからか、しょっちゅう勝手に私の部屋に入ってきては私に話しかけてきた。


 そのいなくなった日だって、いつもと同じ。ただ、鏡越しにしばらく話しかけてきただけで。


「んー?」


 ちらりと、目線だけ動かしてベッドから起き上がることはしないまま、生返事の相槌をして妹の方を見た。鬱陶しいと思う時はあっても、それなりに年の離れた妹が可愛くて、優しくしていた。


「目が合ったー」


 何が楽しいのか、私の部屋にある鏡を覗き込んで私と目が合って喜んで、はしゃいで何度も手を振っていた。私からしたら後ろ姿も見えていて間抜けな感じなのに。


「ほんとだー。えっ怖くない?それ怖いよっ!怖ー」


 大袈裟に怖がってみたら、怖がりもしてくれなくてキョトンとして、


「なんでー?」


 って、反応だったから脅かすつもりですぐに、


「いやだって、その今目の前にいるよっちゃんじゃないよっちゃんと目が合ってるんだもんっ」


 わざと目を逸らして、鏡の前に立つ“よっちゃん”の体の方へ目線をやってから、鏡越しのよっちゃんとまた目を合わせてちょっとベッドの上で後退りしてギョッとした顔をしたら、嬉しそうにきゃっきゃはしゃいで私をビビらそうと、わざと目を見開いて手を振ったりしてきた。


「お姉ちゃん、こわい〜?」


 めちゃくちゃ手を振って、煽ってきた。ビビらそうとしたら、私の反応がただ面白かったみたい。


「怖ーい!見んとこ〜」


 まだ全然構ってあげてないけど、もう飽きて充分構った気になって、私はまた視線をタブレットに戻した。


 たぶん、もっと構って欲しくて、しばらく鏡の前で手を振ったりしてたけど放置してたら、徐々に離れてドアを開けて外に出ても、鏡の端に全体は映らないけど目は合うことに気付いて嬉しそうに呼んできた。


「お姉ちゃんお姉ちゃん!」


 なんとなくまだもごもご何かしてるのは気付いてたから、はいはいと思いながらまた生返事をした。


「んー?はっ!よっちゃんいないじゃんっ!えっ!でも鏡の中のよっちゃんと目が合っちゃってるよ〜?怖すぎっ!」


 生返事からの驚いて意識向いちゃいました!感を演出したら、やっぱり狙い通りの反応に“よっちゃん”は嬉しそうにして、ドアから顔を出してこっちを覗いてきた。


「怖かったでしょー?」


 こういうとこが素直な可愛い“よっちゃん”は、また戻って鏡越しに手を振った。


「やめてやめて!そんなんしててほんとに鏡の中のよっちゃんと目の前にいるよっちゃんが別の動きしたらどうするのさー!」


 また大袈裟に鏡を見て、ドアの方に目をやって、それから、また鏡の方を見た。


 ビビる私の反応にニヤニヤ顔をしてるよっちゃんを見るつもりで。そしたら――




 凄い顔した“よっちゃん”がいた。




「――!?」


 ドキッとしたけど、ベッドからちょっと起き上がって凝視思わずしたけど、泣き出したわけじゃなかったし、えっ、なに?って気持ちのが強くて、驚いて


「どしたっ」


 ってやっぱり鏡越しに様子を見るんじゃなくて直接こういう時って見ようとするもんだよね。ドアを開ききって思わずよっちゃんを見たら、


「なにが?」


 変顔をやめたのか、普通の顔したよっちゃんが振り返って、しれっとした返事が返ってきた。


「えー、変な顔するからちょっとびっくりしたのにー。別の動きした!って騒ぎ出すのかなと思った」


 逆に驚かされたよと思って、ホッとして苦笑いの私に、よっちゃんのがお姉ちゃんに冷たかった。


「しないよー、早くベッドの方に戻って!」


 よっちゃんが今度は私に構うのに飽きたのか、それか反応に不満だったのか、もう私の方を見ずに鏡の方ばっかり見て私に目を合わせてもくれずに鏡に夢中で、私をドアから離そうとする。


 鏡を見ると、結局目を合わせて笑顔。よっちゃんを見ると、笑顔が消えた。これはあれか。鏡越しのドアに隠れて見えない状態で手を振るのをまだやりたいのかと思って、大人しく従った。


「はいはい。よいしょ…よっちゃーん」


 ちゃんとドアの角度を戻してからベッドに戻って、また鏡越しに“よっちゃん”を見て、手を振った。



「お姉ちゃん、ばいばーい」



 鏡越しの“よっちゃん”が、冷たくベッドに私を戻らせたくせに、嬉しそうに手を振って続きを楽しんでた。



 その日から、なんとなくその日を最後に、徐々によっちゃんはお姉ちゃん離れしちゃって、素直で可愛い“よっちゃん”はいなくなった。思春期というやつだ。


 夏休みは友達とたくさん出かけて、私も彼氏と出かけたり塾に行ったりして、私の部屋にべったりいることはなくなった。たまに話しかけにきたりはしてたけど、生返事の私によっちゃんもつまんなくてすぐ居間に戻ってった。


 でも、やっぱり元々素直で可愛いから。未だに鏡越しに目が合うと、私の可愛い“よっちゃん”に戻って手を振ってくれたりする。


「ふふっ、なんであんた鏡越しだと未だにちょっと可愛い反応返してくれるのさ。こっちのが照れるのに。間挟む方が素直になれるとか?鏡の中のよっちゃんが真実か。この歳で手を振るとかさぁ…えっ!?」



 もう大きくなって、思春期になってからツンケンした無表情ばっかりだったけど、思春期も落ち着いて、またそこそこ普通に仲良い姉妹になってきた今日この頃。


 嬉しくなって振り返りながらさっきまで可愛い顔して手を振ってた“よっちゃん”に話しかけてるつもりで、直接振り返って目を合わせて話そうと思ったら、





 ゾクッ!!





 凄い顔をした、よっちゃんが。いた。

 笑顔なんて、浮かべてない。

 目を見開いて。すぐ、後ろに。




『違う動きをしたら、怖いじゃない――』




 可愛い反応を鏡越しにしてくれてた“よっちゃん”は、どこにもいなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] よっちゃん、きっといつの間にか別人と入れ替わっていたんですね。素直で可愛らしくても、怪異は怪異で、やっぱり怖いなと思いました。
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