第一話 チーター
2050年、ある薬が開発された。
その名も『チート』と言う。
体の不自由な人や不治の病に侵されている人などを対象にして作られ、使用することによって身体的に不足した部分を補うと言う効果だ。
革命的な発明に誰もが期待し、使用者は幸せを得た。
だが一方でそれを悪用しようと企てるものが少なからず湧いて出てくることは予想よりも早く、開発からわずか1ヶ月で『チート』が裏社会に出回ってしまうことになる。
『医療用チート』よりも薬の効果を倍増することで、遂に人間は世間一般的に『超能力』と呼ばれるものを手にすることになってしまう。
『チート』を使う者は炎を操れたり、水を空気中の水分から生成したりと様々な者が現れ、次第にチート使用者は『チーター』と呼ばれるようになった。
そしてこの物語の主人公、凌達翼も例外ではない——
7月のある日。
梅雨の名にそぐわぬ大雨の中、翼は傘もささずに、ただ雨の中をひた走っていた。
だんだん雨脚が強くなっていく雨に対して、
「ちくしょう!なんでこんな時に雨がぁぁ」
天気予報への恨み辛みをぶちまけながら、帰路を全力で疾走する。
直角90度に曲がる角に差し掛かった時、案の定走る勢いのまま人にぶつかってしまう。
「あっぶなぁぁぁい」
「え?きゃぁぁぁぁ」
止まろうにも止まれず、翼は勢いのまま曲がり角から出てきた少女にぶつかり、尻もちをつく。
「いてて…あ!すいま…ってあれ?この前助けてくれた方じゃないですか!」
「え?あぁ、この前の。てかぶつかってすんません」
「いえいえ、あなたも傘もささずにどうしたんですか?とりあえず私の傘の中へ」
ぶっ飛んでびしょびしょの翼を傘に入れ、落ち着いた状態で自己紹介合戦が始まる。
「私は帝嶺学園一年の最上れいなと申します」
丁寧にれいなが言うと、続いて翼も。
「俺は常気高校2年の凌達翼。よろしくな、最上」
非常に平凡な挨拶を終え、どこに向かうでもなくとぼとぼと歩く。
「じゃあ俺こっちなんでもういいです、ありがとうございました」
驚くほど早い別れを告げ、もう会うこともないだろうなんて考えながら傘を出ようとした瞬間。翼の真正面にズドーンと雷が落ち、周囲の舗装されたコンクリの道路を木っ端微塵に砕く。
「うわ、びびったぁ〜。なんだ?一体」
そんな呑気なことを言った瞬間、雷の中から薄気味悪い声が響いた。
「よぉやくみぃつけたぜ、ファーストさぁん」
金髪の頭に充血した目、真っ黒な隈を目の下に付けた男が落雷の中心地に仁王立ちしていた。すると翼はこれまでにないほど険しい顔をして、
「逃げろ最上!」
とれいなを一喝。
れいなが逃げようとした瞬間、行く手を先程と同規模の雷が防いだ。
「おっとぉ〜人質ちゃんには帰って貰っちゃ困るねぇ」
「最上は関係ねぇだろ!開放しろ!」
「開放しろと言われて開放する馬鹿がどこにいるんですかぁ?ファーストさぁん?」
悪役のお手本のような言葉を放ち、またもや雷を落とし道を削る。
その後立て続けに雷が落ち、地面と呼ぶには程遠い土だらけのデコボコが連なっていた。
なにも理解できずにただ立ち尽くすれいなを庇うようにれいなの直線上に立つ翼を他所にして、金髪の男は依然として雷を落とし続けている。
「俺様の雷への干渉力を忘れたとは言わせねぇぜ!さっさとやられとけや脳筋野郎がぁ!」
金髪は手を広げ、高らかに笑って見せた。
翼はその笑いを見て今までの険しい顔から一変、少し広角を上げ、ニヤリと笑って見せた。
「なめてんじゃねぇぞッ!」
さっきまでとの優しい雰囲気と一変して、急に態度が荒々しくなると、何やらポケットから抗生物質のような円形の薬を取り出し、口に運ぶ。
カリっと薬を噛み砕く音とともに、翼は拳を固く握り、足を踏み込むと、
「歯ぁ食い縛れ!」
恐ろしく速いスピードで金髪の方へ移動し、凄まじいストレートパンチが顔面に炸裂する。
路地裏の男とは比較にならないくらいの吹っ飛びように少し驚きながらも、終始無言だったれいなが口を開いた。
「凌達さんは…いったい何者なんですか?」
「見ただろ、チーターってやつだよ。もう俺に関わらないことをおすすめするよ」
雷で少し焼けた右手拳で学生鞄を持ち直し、雨の止んだ道を歩き、翼は去っていった。
解説
『チート』
人間の足りない部分を補う薬。
非合法版のチートは医療用チートの効果を高めることにより人間が自然に干渉できるようになる。
足りない部分を補うという機能は無くなっておらず、能力は使用者の1番干渉しやすい自然物質に限られる。
非合法のチートを使う者を世間は
『チーター』と呼ぶ。
解説
『チート』
人間の足りない部分を補う薬。
非合法版のチートは医療用チートの効果を高めることにより人間が自然に干渉できるようになる。
足りない部分を補うという機能は無くなっておらず、能力は使用者の1番干渉しやすい自然物質に限られる。
非合法のチートを使う者を世間は
『チーター』と呼ぶ。