ひきこさん討伐戦
2025年-日本-大阪府
そこに彼女はいる。
今の日本はとても平和で人々は普通の生活をしていた。
はずだった。だがそんな日常の光景はなかった。その代わり、今の日本は「都市伝説」が徘徊している。人々はこの都市伝説たちに悩まされ続けてきた。だが何もすることが出来ず、指を咥える日々だった。あの日までは。
「グギャァァァァァッッッ!」
「よし。今日の仕事は終わりっ!あー疲れた…」
都市伝説の一種の雑魚の体に刺さった矢を回収しながら呟いている人物がいた。彼女こそが清体八善弓。
都市伝説たちに攻撃できる唯一の人間だ。
「本当にありがとうございます!これはお礼です。米と野菜だけど…受け取ってください。」
「あ、すいません…悪いですよ。受け取れませんよおばぁちゃん。」
「いいのいいの。最近あれに悩まされてたの…下手に外に出たら攻撃されるし、中にいても作物を荒らされるしで酷かったの。本当に助かったわ」
「すいません…ならありがたく受け取ります。また困ったことがあったらお申し付けください。それじゃ…」
「おいねーちゃん!凄かったな〜!ねーちゃん、ある日急に都市伝説を討伐します。とか書いてある紙がポストに入ってて…呼んだらひ弱そうな人が来たから不安だったけど…全然そんなことなかったな!また頼むよ!」
彼女は元々由緒正しき神社の家系であり、それ故に強力な神様の加護が彼女にはついている。それを利用して都市伝説たちを討伐し、彼女はそれを仕事にしているのだ。今日はレバニラと炒飯かなと考え、住処の神社に戻った。普段なら八善弓は気軽に住処のある神社に入るのだが今日は八善弓は少々警戒していた。なぜなら普段なら誰もいない参道から何かの気配を感じるからだ。恐る恐る参道を覗くと、人影がいる。まずは反応を見るために、落ちていた石を音を立てるように遠くの地面に投げた。
「ひゅぃ!な…なに…?まさか都市伝説の類いじゃないよね?怖いよぉ…」
随分と覇気のない声だな…とか思いつつ敵意のない人間だったことに八善弓は安堵した。
「おーい!そこの人〜!もしかして依頼人かい?ちょっと話しますか?」
「え…?ほんとにいたんだ…はい!依頼をしに来ました。」
「まぁここなんじゃなんだからさ、裏のプレハブの中でしよう。危ないしね。私は清体八善弓。都市伝説を駆除してる者さ。」
そうして自分の住処でもあるプレハブに案内した八善弓は依頼を聞く準備をした。
「さぁ…依頼は何かな?退治系かい?」
「はい…今日はボディーガードをお願いしに来ました!」
「ボ、ボディーガード?ま、まぁ話を続けて。」
「はい…実は…私の通ってる学校で都市伝説が出現したんです!それで…その都市伝説はどうやら私を狙ってるようなんです…しかも襲われるのは明日だそうなんです…確か…名前はひきこさんというらしいです。なので守って頂きたいと思いまして」
ひきこさん。有名な都市伝説でありそれ相応の力を持っているので、無事に守れるのかどうか八善弓は考えていた
「え?ひ、ひきこさんが!?それは難しいな…」
「やっぱり…ダメですか…他をあたります…」
肩を下ろし、絶望した顔で外に出ていこうとする女性を引き留めた
「あ、あ〜違う違う!!やる!やるけど…」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
助けを差し伸べられ、感激している顔を見せられると断り辛くなった。こりゃ困ったことになりそうだ。と八善弓は思った。
「取り敢えず、明日君を守る準備するから、今日はここに泊まって。一応ここは強力な盛り塩をしてるから大丈夫だとは思うけど…まぁ寝なさい。元気にならないといけないよ。」
「はい。分かりましたけど…あなたの寝るところは?」
「大丈夫。私は基本ベッドじゃなくてソファーで寝てるから。使って使って。」
「え、あ、はい…それじゃおやすみなさい…」
「おやすみ」
こうして、八善弓はある事件に巻き込まれる羽目となった。
次の日、とても襲われる最悪の日とは思えないほどのいい天気日和だった。八善弓に起こされた彼女は、細かく味付けされた朝食を食べ、ついに学校に行く事になった。
「あの…本当に大丈夫でしょうか…?」
「大丈夫。少なくとも午前中と学校の中は安全だよ。そのうちに覚悟しときなさい。もしかしたら死ぬかも知れないから。じゃ午後の帰宅時間に依頼人さんの学校に行くからね。」
「分かりました。それでは行ってきます。」
「はい、行ってらっしゃい。」
(最近の学校ってアクセサリーは大丈夫になったんだなぁ)
八善弓は心の中でそう思いながら、笑顔で見送り、ひきこさんについて対策を練った。
そして午後がやってきた。学校の中にいる依頼人はあることに気づいた。午前中にはいなかった変な女性が学校の周りをグルグル回っていた。そしてずっと目が合ってることに気づいたとき、彼女はとてつもない不安に襲われた。
そして帰宅時間になった。
天気悪くなったねーとか今日の部活何するのー?とか呑気なことをを言っている周りの人達を羨ましく思いつつ、八善弓を待っていた。
「ヤッホー。おまたせ〜。帰るよー」
「あ、あの…さっきからずっとひきこさんが校門の前で立ってるんですけど…見えてないんですか?」
その問いに小声でこう返した
「ん?いやいや見えてるよ。見えてることバレたら不意打ちが出来なくなるからね〜。ささ!行くよ!」
腕を掴み、移動しようとしたら足を踏ん張り不安の声を漏らした。
「え、でも…」
「なにビビってんの!大丈夫、しばらくは人目があるからね。ひきこさんは一人になったところを襲うから、私も途中で外れるけど冷静を装ってね。」
そう言いながら八善弓は、対策法を書いたメモをこっそりと手の中に握らせた。
「これは?メモ?」
そう問う彼女に小声で八善弓は返事した。
「このメモはひきこさんの対策法だよ。もし襲われたら依頼人さんはこれを使って怯ませて。いいね?そろそろ私は消えることにするよ。またね!」
そう言い彼女は武器を用意してある路地裏に向かった。
一人にされた依頼人は不安と闘いながら平然を装いながら神社に向かっていた。
(うぅ…背後からすごい気配がする…あの角を曲がったら完全に人目が付かなくなる…多分そこで襲われるんだろうなぁ…怖い)
そう思いながら角に差し掛かった時、ついにひきこさんが話しかけてきた。
「ねぇ…私の顔は醜いか?」
「あ、え?」
「私の顔は醜いか?」
「あ…えっと…」
「私の顔は醜いかぁぁぁぁッッッ!!!」
ひきこさんは急に叫びながらえげつないほど伸びた爪で切りかかってきた。
「キャァァァァァァッッ!」
「キェェェェェッッッ!ウグァッ…」
頭に矢が刺さったひきこさんは呻き声を立て、倒れた。
「おい!依頼人さん!大丈夫?」
「は、はい…あの…その服装は?」
「ん?これ?胸当て!取り敢えず、依頼人さんは神社に!」
急いで依頼人に神社に向かわせるように諭し、さっきひきこさんが倒れた場所に顔を向けると、異変に気付いた。そこにいるはずのひきこさんがいないのだ。そして依頼人の叫び声が聞こえてきた。
「クソッ!一本取られた!とにかく行かないと!」
依頼人の元に向かう時、八善弓は考えた。
(なんでだ?私の矢は加護を受けているはず。加護を受けた矢が都市伝説に刺さったら普通はそのまま動かずに浄化されるはず…けどひきこさんには通用しなかった。いくら有名で強いとはいえど同じように浄化されるはずだ…まるで強化されてるみたいだ…だとしたら依頼人さんが危ない!)
八善弓は足を早め、依頼人を探し始めた。
だが依頼人がいるであろう場所には誰もいなかった。八善弓は必死で耳を澄ました。耳を澄ましてしばらくした時、声が聞こえた。
「痛い痛い!私はなにもしてないって!許してよ!」
「聞こえた!えっと…東南!神社方面か!待ってろ!今向かう!」
神社への最短の道を通り、ひきこさんを見つけた時、八善弓はひきこさんに激怒した。依頼人が血塗れになり、話しかけても返事もできないほど引きずり回したからだ。
まず八善弓は弓に矢を装着し、ひきこさんの依頼人をつかんでいる方の腕の肩を目指して矢を飛ばした。
そして矢が肩に命中し、腕を飛ばした。
「よしっ!次はその顔だ。覚悟しな!」
そうひきこさんに叫ぶとかなり怒ったのかひきこさんは地面に手を突っ込んで八善弓の足を掴み、そのまま引きずってきた。
「あいだだだっ!ちょちょ!手加減しろよ!」
地面の中に引きずり込まれ、空中に投げ出された八善弓は近くに神社があることに気づき、あることを思いついた。早速八善弓は神社の本殿に向かって矢を飛ばした。
(よし…あとは時間稼ぎと場所移動だな…痛いのは嫌だがここまで来たのなら仕方ない…やるか)
「おいッ!その程度かぁ?かなり痛かったがこんなもん効かないよ!」
八善弓は弓に矢を5本装着し、弦を目一杯引き、
狙いを定めた。
「食らえ!防いでみな!」
そう言いながら指を離し、ひきこさん目掛けて5本の矢は飛んで行った。ひきこさんは長い爪で矢を弾き飛ばし、その隙に八善弓は神社へ全速力で走った。後ろからひきこさんの足音が聞こえるがそんなものは気にせず走り続け、やっと神社の前に到着したが、あと一歩のところで邪魔をされた。
またもや足を掴まれ、地面に叩きつけられ鼻血が出た。
「邪魔を…するなぁッ!」
と叫び、腰につけていた魔除の塩を掴みひきこさんに撒いた。意外と効いたのか、顔を手で覆い倒れた。今だ!と八善弓は神社に入ろうとするが、
髪の毛で邪魔された。
「おい…またかよ。そろそろいい加減にしてくれよ!うわっ!」
何度も邪魔されるので八善弓も苛ついたのかドスの効いた声で話しかけたが、ひきこさんのつり上がった目と裂けた口がニヤニヤしていてさらに八善弓を苛つかせた。
「ニャロォ…!ふんっ!うわっ!うわわわわ!」
伸びた髪の毛が足を掴み持ち上げ、上に放り投げた。その時、神社の中から矢を持った依頼人が出てきた。
「清体さん!これを使ってください!」
その矢は先ほど神社に射った矢だった。彼女はその矢を思いっきり八善弓に投げた。それを八善弓が受け取ると、突然眩しく輝きだし、昔ながらの矢に変化した。
「ナイスだ!依頼人さん!よし!おい!ひきずり野郎!那須与一の加護を受けた矢を食らいなぁ!」
「ウルさぁァァァァァィ!死ねェェェェ!」
「憑依、那須与一!神珂十!」
ひきこさんは髪の毛を矢を受け止めるために捻り、丈夫な縦長の器を作ったが、力及ばず髪の器を貫きひきこさんの脳天をも貫いた。そして地面に大きなひび割れを作り、輝いていた矢は完全に折れ、光が消滅した。
その光景を見た依頼人は八善弓がまるで神のようだった。と思った。そしてひきこさんは雄叫びを上げ、完全に消滅した。
「ふぅ…終わったぁ…疲れたよぉ」
激闘を繰り広げた八善弓は安堵のため息をついた
「あ!依頼人さん!大丈夫かい?」
「…」
少しの沈黙の後、寿は口を開いた
「あ、あのぉ…実はお願いがあって…」
モジモジしながら依頼人はそう言った。
「ん?なーに?もしかして他にも都市伝説に絡まれてるのかい?」
「いえ…実は…私を助手にしてくれませんか?」
まさかの発言だった。今まで応援だけで手伝ってくれる人がいなかった八善弓にとっては思ってもない事だった。
「いいよ!いいけど…私の助手になるっていうことは、とても危険だし死ぬかもしれないことだよ?覚悟できてるの?」
「はい!それでもあなたの助手になりたいんです!」
どうやら何を言っても無駄そうだ。と八善弓は思い、OKを出した。けれどとても、八善弓は嬉しかったし、人生で一番幸福な瞬間じゃないか?と思った。
「よし!じゃあ助手になったんなら…名前を教えてくれるかな?」
「はい…私は稚日寿と言います!」
「うん。じゃあ…寿ちゃん。何か美味しいものでも食べようか」
「はい!」
何とかひきこさんを倒し、助手もできた八善弓はとても良い笑顔をしていた。
どうも。叶本です。この際は私の完全オリジナルの小説も執筆させてもらいます。
今回のヒロイン役の稚日寿ちゃんは読みが難しいので書いておきます。「わかひることぶき」と書いて「稚日寿」と書きます。是非覚えていてくれたら幸いです…。ここまで読んで頂きありがとうございます。
毎日投稿は私の予定がありますので少々期間が空いたりするかもしれませんが、ご了承お願いいたします…。