04 君は今、路地の王の前にいるのだ
個人的にジ○リネタは最強だと思います。
衝撃的な事が起こって俺は部屋に引き籠もりたくなったが、宿屋の部屋にはパソコンもマンガもあるはずが無く、現実逃避したくてもしようがなかった。
(一体、何が起きたのだろう)
翻訳能力が関係していることは間違いない。だが、この能力は不明な点が多い。どこまでのことが出来るのか、説明が欲しいところである。
(やはり、ステータスを確認する必要があるか)
ステータスの確認が出来れば、スキルの一覧とかで翻訳能力も判明するかもしれない。また、スケさんが天職とか言っていた転生特典の詳細もわかる。それが判明するまでは迂闊な行動は慎むのがセオリーである。
先ほど探索した中に本屋の看板も見かけていた。そろそろ開店している頃合いだろう。宿屋も何とかなったし、本もちゃんと買えるだろう。……なんとかなったのだ、名前のことは一旦置いといて。
俺は荷物を下ろさずそのままの格好で、部屋に鍵を掛けて1階へ降りた。
1階に降りたところで食堂が目に入り、空腹だったことを思い出す。
冒険者らしき男性2人が受付の人に怒られていたが、何かあったのだろうか。冒険者仲間か、羨ましいな。
適当な席に座ったら朝食が500円だと言われたので、支払うとすぐに持ってきてくれた。パンを中心とした洋風朝食で、普通に美味しかった。
腹ごしらえを済ませれた俺は、再び街へと歩き出した。
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そして、本屋にやって来た。
予想通り開店しており、中を覗いてみるとずらーっと本が並んでいた。日本で言うなれば古本屋みたいな感じだ。誰もいないな。
本棚に書いてある文字を読んでみると、ちゃんと種類ごとに整理してあるようだ。目欲しいところでは魔法関連、魔物関連あたりだろうか。他には宗教関連、医学関連、科学関連など、日本にもありそうなものくらいだ。医学や科学に関する本があるのには少し驚いた。あと、当然だがマンガやラノベは無かった。そもそも文学小説とかも見当たらない。
そういう訳で俺は、魔法関連の本棚から探していくことにした。しかし、本のタイトルを1つずつ確認していくのは少し手間である。この翻訳能力、読むのに1、2秒くらいかかるのが玉に瑕だ。
30分くらい探しただろうか。
ようやく見つけた本のタイトルが『ステータス魔法の全て』と『魔導師入門書』だ。どうやらステータスは魔法で確認するものだったみたいだ。値段は裏表紙に書いてあった。前者が2400円で、後者が2100円だ。
思ったより安いな。この世界では紙は高価ではないようだ。これで2日分くらいは生活費が削れてしまうが、必要な出費だろう。
ひとまず、これだけ購入するとしよう。
会計に向かうと、呼び鈴が置いてあり、『ご用の方は鳴らして下さい』と書いた紙が立てかけてある。店構えからして思ったが、無用心過ぎやしないだろうか。防犯魔法とかあるのかな。
呼び鈴を鳴らしてみた。
「待たれよ」
嗄れた声が聞こえ、しばらくすると髭の濃い老人が現れた。
「お会計かの」
「あ、はい」
「どれ、合わせて4500円じゃな」
俺は財布から硬貨を取り出す。
「確かに。お主、駆け出しの冒険者かの?」
「ええ、まあ」
「今朝方、ステータス魔法のアップデートが配信されてのう。もう持っておるかの?」
アップデート? どゆこと?
取り敢えず、話を合わせておこう。
「いえ、まだです」
「そうかそうか。ギルドで配布されるようになって、ワシの所に来る者が減ったからのう。ちと寂しかったんじゃ。ほれ、これじゃ」
そう言って1冊の冊子が渡される。タダでもらって良いのだろうか。
「ありがとうございます」
「今後とも、ご贔屓に」
そのまま、嬉しそうに爺さんは手を振ってくれた。何となく手を振り返して店を後にする。
タダでもらって良いみたいだ。ギルドで配布とか言ってたし。思いがけないアイテムをゲットした。ようやくツキが回ってきたのかもしれない。中身はよく分からないが重要そうだ。宿屋に戻ってからゆっくり確認しよう。
それにしても、穏やかな爺さんだった。寂しいとか言ってたし、また機会があれば行くか。その為にも、まずは宿屋に戻って勉強だ。
この時の俺は浮かれていたのだろう。ツキが回ってきたなんて思ったのもつかの間、ちょっとしたトラブルに遭遇してしまった。
宿屋に向かう途中の道で、変な男の2人組に声を掛けられた。
「よーう、ニーチャン。お買い物の途中かーい?」
「大事そうに本抱えて、どこさ行くだべか?」
言葉遣いが変なイントネーションな男と、めちゃくちゃ訛ってる男だ。何弁だ? モグリの俺は駅弁しか知らん。
「ちょーっと、あっちまでー、ヅラ貸してくれえなーい?」
「大人しく言うこと聞いた方が身のためだっぺ」
いわゆる、カツアゲという奴なのだろう。この世界にもいるんだな。
「すみません、急いでるので」
「だーれが、断っていーいつったぁー? あぁーん?」
通り抜けようとしたら回り込まれてしまった。これは面倒になってきたな。どうしよう。
「んだば、ちょっくら付き合ってもらうっぺ」
そのまま路地裏へ誘導される。え? 何この展開。ベタといえばそうだけど、どう切り抜ければいいんだ?
路地に着いたところで突き飛ばされ、そのまま仰向けに倒れてしまう。本と冊子は無事である。
「ひーっひゃひゃ、身ぐるみぜーんぶ、置いてきなぁー」
そう言って男たちはナイフを取り出した。そういえば、俺も腰に剣があったんだったな。
俺は立ち上がり、手に持っている本と冊子を路地の隅に置く。
そして、剣に手を掛け、一気に引き抜いて前に構えた。
「なんだべ? やるっていうんだべさ?」
「んー? おい、見ろよぉー! こいつ足が震えてやがるぜぇー! 怯えてやがる、あひゃひゃひゃ!」
怖いんだから仕方ないだろう!
切るのも怖いし、切られるのも怖い。
お前ら、死ぬ時の苦しみを知ってんのか?
あんなの二度と味わいたくないし、味わわせたくない。
生きてるってのはそれだけで素晴らしいんだよ!
それをこいつらにどうやって分からせるか。
やるしかない。やるしかないんだ!
「そーんなんじゃー、隙だらけなんだよぉ!」
来る! 右だ!
直後、左側の脇腹から痛みが走った。
痛い! めっちゃ痛い!
「ほーら、フェイントにすら反応しないんだーからー、弱すぎだってぇーのー」
俺、刺されたのか?
だったら、もっと血が流れて苦しいはずだけど、苦しみは無い。それに、刺してきた男と距離が空いている。咄嗟に地面に手を付いてしまったから、状況を鑑みるに吹き飛ばれた?
「なんだべ? 意外と体力はあるっぺな。まだ4分の1も削れてねぇべよ」
「だったらぁー、もーっといっぱい刺してヤっちゃえばいーだろぉー。こーんな感じにぃー!」
更に攻撃を仕掛けてきた。今度は顔を切り上げられ、胴が伸びた所にナイフを突き立てられる。後方に大きく吹き飛ばされた俺は、その衝撃に剣を落としてしまう。
「ほーらほらー、どぉーしたのぉー? このままじゃ終わっちゃうよぉー?」
なるほど、体力か。RPGみたいにHPがあって、それで命は守られているってことだろう。
体力が尽きたとき、俺の第二の人生も終わるのか。
武器も手元に無い。あったとしても技量が違いすぎる。防具の薄いところを狙って攻撃されてるし。
だとしたら、俺が出来ることはただ一つ!
「あ! 逃げたっぺ!」
「ちょーっと、遊び過ぎちまったなぁー。追いかけるぞ!」
ちょうど吹き飛ばされて距離が空いたのだ。逃げるには絶好の機会だ。路地は走りにくいが、それは相手も一緒だろう。
「どぉーこへ行くというのだねぇー!?」
「おめぇさは今、路地の王の前にいるんだべ!」
来ちゃダメー!
徐々に距離が縮められている。路地の王を名乗るだけあって、あいつらは道に慣れているのか。
しばらく追いかけられて、T字路を真っ直ぐ進んだ時である。
通り過ぎた道に、何かがいた。
その何かは俺がT字を通過した直後に、俺の後ろへ飛び出した。
(今の、何だ?)
振り返って見てみると、黄緑で透明な丸いものが跳ねている。大きさは膝くらいまである。
見ると、追いかけてきた2人組も立ち止まっている。立ち止まるどころか、顔色が悪くなっている。どうしたのだろう。
「ま、ままままま、魔物だあああアアアアーッ!」
「ぎゃあああああ、助けてくれぇぇぇえええ! かあちゃぁぁぁああああん!」
突然2人は狂ったように走り出した。それまでの態度では考えられない狼狽えっぷりだ。
魔物はゆっくりと、男達が逃げた方向へ一歩ずつ跳ねていた。