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はぐれ魔王は逃げ出した!  作者: かなじろう
第一章 魔王誕生編
3/6

02 異世界に出会いを求めるのは間違っているだろうか


(さて、どうしようか?)


 噴水のある広場の真ん中で、俺は棒立ちになっていた。

 新たな世界に感極まって、さっきは変なことを呟いてしまったが、だんだん冷静になってきた。独り言は誰にも聞かれていないからセーフだ。


 まだ日が昇り始めたところで、周りは徐々に明るくなっている。流石に朝が早すぎるのか、まだ人とは誰とも遭遇しない。あ、猫だ。この世界にもいるんだな。

 中世を思わせる街並みは、俺の短かった人生では見たこともない。太陽が昇る方向を東とするなら、北の方向に城が見える。城も立派で、街も随分広そうだから、ここはどこかの国の城下町だろう。


 近くにある建物に窓がついていたので、ひとまず近寄って反射する自分の顔を確かめる。


「これが、俺なのか?」


 思わず声が出てしまった。

 そこには、生前の俺とは全く別人の顔があった。灰色の髪、水色の目、整った顔立ち。ただ、性格は生前と変わらないので目つきは暗い。暗い目つきをみるのが嫌で直ぐに顔を背けるが、驚きは隠せない。


(本当に転生したんだな。しかも割とイケメン。スケさんありがとう!)


 ひとしきり感動し終えたところで、今度は服装に注目する。動きやすくありながら、要所要所には頑丈そうな皮が使われている。

 そして腰には一振りの剣。まさしく旅の冒険者といった装備だ。

 剣の鍔を少し浮かせてみる。


(ホンモノだぁ……。怖ぇ……)


 この剣で何を切れというのだろうか。魔物か? 魔物だよな。魔物じゃなきゃいやだ。人と刃を交えたりするなんて絶対やだからな。いのちをだいじに。


 腰にはもう一つ巾着袋がある。ジャラジャラと音が鳴るから財布だろう。中を見てみると金貨が4枚、銀貨が大きいのと小さいのが9枚ずつ、銅貨は大きいのが9枚で小さいのが10枚だ。

 困った。価値基準が解らない。硬貨には何か書いてあるが、見たこともない文字だ。

 何か規則性でもないかと金貨をじっと眺めていたら、突然文字が変化した。


『金貨 一万円』


(翻訳機能か? いやいや、それでも円はないでしょ!)


 どうやら転生にあたり、この世界の言語を日本語に変換してくれる能力をもらっていたようだ。そういうことは教えてくれよ、スケさん。

 改めて周りの建物にある看板に目を凝らしてみると、『宿屋 安らぎ亭』とか『鍛冶屋ひとすじ頑固工房』とか『秘薬あります』とかいろいろ読めた。

 ひとまず財布に戻って硬貨を確認してみると、それぞれの価値は次のようになっていた。


 金貨…………一万円

 大銀貨……千円

 小銀貨……百円

 大銅貨……十円

 小銅貨……一円


 こんなにわかりやすくていいのだろうか。しかも円表記って、物価とか大丈夫なのか? そのあたりも変換してくれる翻訳機能なのか?

 まぁ、細かいことは気にしないでおこう。気にしたら負けだ。

 ともかく、これで所持金は5万円あることがわかった。丁寧に両替してあるのはスケさんなりの配慮だろう。これだけの金額だと、何日くらい保つのだろうか。


 あとはステータスとやらだな。

 目の端にアイコンとかあるかもと思ったが、そんなものは見当たらない。ステータスを開くよう念じてみても何にも起きない。

 深呼吸して、咳払いして、意を決して唱えてみた。


「ステータス・オープン」


 しかし、何も起きなかった。

 やばい、恥ずかしい。穴があったら入りたい。誰も聞いていないよな。誰かに聞かれてたらもう俺の人生終わりだ。

 唱える言葉を間違えたか? まさか訳の解らない異世界語で唱えなければいけないとか?

 だとしたらどうしようもないではないか! 誰かヘルプミー!


 その時、通りにある建物のドアが開いた。まさか、さっきの呟きを聞かれたか?

 優しそうな若い女の人で、手にはジョウロを持っている。女の人は家の外の花壇に水遣りを始めた。

 そして目が合って、初めてこちらに気付いたようだ。なんだ脅かしやがって。


(わからないことは現地の人に聞け、か)


 スケさんが言ってたことを思い出した。

 そう、俺はこの異世界で新たな人生を始めるのだ。


 一歩。


 これまでの、あらゆることから逃げていた人生とはおさらばするのだ。


 もう一歩。


 孤独ではない、多くの仲間に囲まれた輝かしい未来の始まりが、ここなのだ。


 更にもう一歩、足を動かす。


 さあ行け! 俺! 生まれ変わったその姿で、何でもいいから声を掛けて知り合いを作るのだ!


 そして俺は走り出した。女の人とは反対方向に。一歩ずつ後退させていた姿勢から、勢いよく、見事な敵前逃亡を決めてしまった。


 やはり俺は、俺だった。


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