第5話 1年目「4月6日」(中編)
午前中で教科書の受け取りや、クラスメイトたちの自己紹介が終わり、午後は授業がまだ始まっていない二年生や三年生たちが活動している部活を軽く見学しても良いことになっている。生徒たちは気の合った者同士で集まり、これからどの部活を見に行くか、今日は部活見学をしないでどこかに遊びに行くのかなどを相談していた。恵美も同様にこれからどうするかを相談するために未来に話しかける。
「みらいちゃんはこれからどうする?」
「うーん、今日は軽く見るだけらしいし、入学式で吹奏楽部の演奏も聞けたから、えみちゃんについていこうかなって思ったんだけど、いいかな?」
未来は少し申し訳なさそうに、はにかみながら尋ねた。上級生ばかりの部活を一人で見学するというのはかなり勇気がいるので、恵美にとってこの申し出はとてもありがたいことだった。
「むしろこっちからお願いしたいくらいだよ!一緒に行こうよ!」
「ありがとうっ!じゃあ、まずはどこ行こっか?やっぱり、はじめに文芸部に行く?」
恵美は少し考える。
今からすぐに、好きな作品たちを作り上げた本人に会うための心の準備ができているかと言われると、正直もう少し時間が欲しい。とりあえずはクッションとなる無難な部活を見に行こう。
「えっと、文芸部は今日の最後に行こうかな。とりあえず、他の部活も見てみるよ。もしかしたら、意外なとこに興味持つかもしれないし」
「確かに!メインのとこは後に取っておきたいもんね~」
「そゆこと。まずは……美術部とか科学部見に行ってみよっか」
恵美は未来の机に置いてある部活動案内の紙を見て、一年生の校舎から一番近いところで活動している部活を適当に見繕う。
「おっけ~。じゃあ、準備しよー」
「了解!」
そう言うと、二人とも自分の机の上の貰ったばかりの教科書や資料を鞄に詰め込んでいく。
「それにしても……みさきちゃん人気だね~」
一足先に準備ができた未来は三咲の机を見やった。これからどうするか相談していたクラスメイトはすでに行動を開始しているのに対して、三咲の周りには軽く人だかりができている。主に女子たちが三咲を取り囲み、『学年トップなんてすごいね~。どうやって勉強してるの?』とか『どの部活に入るの~?』とか様々な質問を三咲に投げかけている。それを遠目に見ている男子生徒がちらほらといるという感じだ。
「知り合いなの?」
「一応、同じ中学なんだけどね?一度も同じクラスになったことなかったし、高校決まってからいろんな友達にみさきちゃんのこと聞いたんだけど『あの子はなぁ……』ってはぐらかされてばっかりだったから、正直よくわかんないなぁ」
何か重大な秘密でも持っているのだろうか?まあ、いずれにせよ私は単なるクラスメイトとして無難に過ごしていこう。どうにも頭が良すぎる人とは仲良くなれる気がしない。
恵美はそんなことを考えながら、荷物をまとめ上げ、『へぇ~』と生返事をした。
「でも、せっかく同じクラスになれたんだから、今年は仲良くなれたらなぁって思ってるよ!」
「私はあんな人気者とは仲良くなれる気がしないなぁ……準備できたし、行こっか」
「えみちゃん優しいし、みさきちゃんとも仲良くなれると思うけどなぁ」
そりゃあ、みらいちゃんみたいな人には優しくできるけど、頭の良すぎる人はやはりどこかおかしい人が多い気がする。まあ、そんなのはアニメとかでしか見ないから、単なる食わず嫌いなだけかもしれないなぁ。機会があったら一度話してみるのもありかな。
「そういう機会に恵まれればいいんだけどね~」
そんな会話をしつつ、二人は教室を出て部活見学に向かった。
恵美の悪い予想が的中してしまうことに加えて、話す機会に恵まれすぎてしまうということを二人はまだ知らない……。